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リモート (遠隔) 監査の実際とその可能性

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リモート (遠隔) 監査の実際とその可能性

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言の発令中、多くの企業や認証機関でリモート (遠隔) 監査が実施され、その結果、さまざまな制約とともに、その利点も明らかになりました。現地訪問が可能となってからもリモート監査が引き続き実施される可能性も大いにあります。リモート監査を積極的に推進している認証機関、ロイド レジスター クオリティ アシュアランス リミテッド (LRQAジャパン) のサービスデリバリーマネジャー(審査部門長)である野浦晃さん (IRCA登録 QMS 及びEMS Lead Auditor) にリモート監査に関するLRQAの取り組みや、リモート監査のもつ可能性についてお話を伺いました。

LRQA とリモート審査

IRCA: ICTツールを用いて遠隔から実施する監査手法は、すでに2008年にIAF (国際認定フォーラム) から基準文書 MD4 も出ていましたが、これまでそれほど広がっているという印象はありませんでした。先日、IRCA ジャパンが実施したアンケートでも、コロナウイルスの感染拡大に伴って、日本では多くの認証機関や企業で審査/監査が延期されているという回答がありました。そんな中、英国を本拠地とし、世界中で認証業務を実施しているLRQAでは、積極的にリモート審査を導入していると伺いました。
なぜリモート審査という選択肢を積極的に取り入れていらっしゃるのでしょうか。

>>新型コロナウイルスとクオリティマネジメント」アンケート結果まとめ

野浦: 何よりまず、いちばんは審査員及び顧客の皆さんの感染予防、Safety first があります。また、延期をした場合、後ろ倒しにした審査が実施可能になった段階で、審査の数が大幅に増え、審査員を含むリソースが不足することが予想され、そうなると顧客企業にご迷惑をお掛けすることになります。そして、当然ですが、審査が延期となれば、売上が減少しますので、売上の維持も目的の1つとなります。
5月現在、LRQAジャパンにおける審査のリモート比率は 55%以上にまで上がっています。英国では70%近いと聞いています。

IRCA: しかし、そうは言っても、簡単にリモート審査を導入することはできるのでしょうか。LRQA がスムーズに導入できた理由はありますか。

野浦: 9001、14001の2015年版移行審査の際に、すでにヨーロッパ諸国でICT ツールを活用した実績がありました。日本では50回程度無料顧客セミナーを開催するなどしたこともあり、顧客組織の移行への意識が高く、問題なく期限内に皆さん、移行を完了していましたが、海外では組織側の移行準備が遅れて、移行期限直前に移行審査が増大しました。そのため、移動を減らして、審査員の効率を上げる必要があり、ICTツールを利用した審査を実施したのです。
この折のノウハウの蓄積があったことに加え、今回、最初にCOVID-19の影響を受けた中国で、先行してリモート審査を実施しており、その情報の共有が十分にできました。また、リモート審査をサポートするために、情報を共有する社内のプラットフォームを立ち上げ、各国の認定機関のルール変更、各国での成功事例、各種ガイドラインを日々アップデートしながら、全世界で共有したことも、大変有効だったと思います。


※未来の審査の方法を予感させるビデオ。
ロイドレジスターではMarine やInspectionの部門や一部LRQAでこのようなリモート専用
アプリケーションがすでに実用化しているということです。

IRCA: なるほど、今回のことだけでなく、過去からの積み重ねがあり、その経験、知見が世界中で共有されたわけですね。
LRQA ジャパンでは、リモート審査を実施するに当たり、特別な対策を取られましたか。

野浦: 日本では、リモート審査に必要な、特にICT ツールの使用について、サポートチームを立ち上げ、契約審査員を含む、総勢約150名の審査員、営業部員及び事務所スタッフに対し、実際にTeams やSkype for Business を接続してのトレーニングを実施するとともに、審査の前のお客様との接続確認も、必要に応じ、このサポートチームが立ち会う体制を整えました。なお、マネジャーたちは日ごろから海外とTeams やSkype for Business で会議を実施しているので、十分にツールに慣れていたということもあります。
また、リモート審査に関するハンドブックの作成に加え、各種ツールの使用ガイドを全審査員に配布しています。そして、全審査員に対してツールごとの力量評価を実施し、Low、Middle、High で格付けしています。ただ、審査員にICT のツールの使用方法に慣れてもらうのは手間がかかる作業ではありました。
ウェブ会議のツールに関して言うと、TeamsとSkype for Business に加えて、WebEx、Zoom、Google Hangout/Meet でも対応可能です。ただ、Zoom に関してはセキュリティ上の問題が指摘されていることもあり、ロイドレジスターグループ全体におけるZoom 使用に関するポリシーが発行されており、ポリシーに従い使用しています。
このICTツールのトレーニングが自発的な審査員のリモート勉強会に発展するとともに、社内コミュニケーションの活性化につながったのは当初の想定を超えた成果でした。

IRCA: リモート審査の難しい点は何ですか。審査の際にはどのようなことに気を付けていらっしゃいますか。

野浦: リモート審査の最重要点は事前準備にあります。事前準備では、必要な文書、記録などの文書化した情報をどのように閲覧するかをきちんと受審側の組織と合意して組織側での事前準備をしていただくこと、製造現場、据付現場、建設現場の審査では何を確認するのかをきちんと連絡しておくことが必要です。
また、審査終了後には、あらかじめ了解を得て取得した、関連の記録類など、コンピュータ画面のスクリーンショットを含め、入手した情報を確実に破棄することが情報セキュリティ上も重要となります。

IRCA: 逆にリモート審査のほうがやりやすいことや、効率的だなと思われることはありますか。

野浦: 電子媒体での閲覧はときとして紙媒体より見やすいことがあります。また、口頭だけでなくチャット等を活用するなど、コミュニケーション手段が多彩で顧客との意思の疎通が図りやすいということがあります。
また、当然ながら、部門、プロセスの審査の切替時に移動する必要がなく、その時間を審査時間に活用する、あるいは審査員の所見整理に利用できます。現地審査の場合は、同じ敷地内でも、移動に5分、10分かかるのはよくあることです。

IRCA: なるほど、文書を確認するときには、ついつい紙に固執してしまうことがありますが、電子媒体であれば、検索などの機能も使えますし、便利な部分もあるわけですね。また、電子的な通信では意思の疎通は図りにくいといった先入観がありましたが、さまざまなツールを使うことができるという点で、記録が残るなど、それぞれの利点を活用できますね。
そのほかにもリモート審査には現地審査にはない利点があるのではないかと思うのですが、いかがですか。

野浦: リモート審査のもっとも大きな利点は移動がいらないということです。移動がないので、審査の効率や有効性が上がり、審査員の移動に伴う時間やリスク、コストもなくなります。また、審査の効率性、有効性が増すことは顧客満足にもつながります。特に、マルチサイト認証の場合、リモート審査は審査側、受審側にとっての利点が大きいです。

IRCA: ただ、リモート審査には利点だけでなく、リスクもあると思います。リスクへの対応はどうされているのですか。

野浦: 審査に際し、ICT複雑度のレベルが高いなど、一定の条件が認められる場合、所定のリスク分析フォームを作成し、その審査に固有のリスクを特定しなければならないとしています。そして特定されたリスクに対しては、リスク低減措置を設定することになります。

審査先の組織とリモート審査

IRCA: 審査をリモート審査で実施するといったときに、審査先の企業や組織はすんなりと受け入れてくれますか。また、リモート審査を受け入れてもらう上で障壁となることはありますか。

野浦: 組織のこれまでの状況によりICT ツールの整備状況がかなり異なるため、使用経験が少ない会社を説得するのは結構大変です。通常、受審組織に会議のホストをしてもらうのですが、この場合はLRQA の審査員側が会議のホストとなり、接続テストを行うことによって、安心してもらう方法を取っています。
なお、大企業で偶にあるのですが、その組織のセキュリティポリシー上、リモート審査は許可されないと言われますと、少しハードルが上がります。一旦審査を延期してしまうのは簡単ですが、我々の方でも審査員のリソースが足りなくなり審査が出来ないと最終的にはお客様にご迷惑をおかけすることになります。こういう場合にはお客様と辛抱強く交渉し、セキュリティーポリシーに収まる形での審査を模索することにしております。また、中小の組織でPCインフラが整っていないというときは、延期するしかない場合があります。
ただ、大企業の場合は、第三者のリモート審査は受け入れられなくても、組織自身は内部監査、二者監査をリモートで実施しているところは多いようです。出張制限がある中、拠点や取引先がたくさんあるところはリモートで実施しておかなければあとで追いつくことができないからです。

IRCA: 野浦さんご自身も第三者認証審査員として、リモート審査を実施されているということですが、審査先の皆さんの反応はいかがですか。スムーズに対応していただくために何かおこなっていらっしゃることはありますか。

野浦: 組織によっては無駄な移動時間やコストがかからない、また、船舶審査、海外拠点などは過去、日程調整にかなり手間取っていましたが、柔軟に対応できるということで喜んでいただいています。
また、LRQA では、リモート審査を受けていただく組織に対し、LRQA が審査で何を実施するのか、そしてお客様側ではどのような対応が必要かについて細かく説明し、ご協力をお願いする文書を事前にお渡ししています。規格によって、リモート審査に制限がある場合がありますが、そういったこともお知らせしています。

IRCA: IRCA のアンケートの結果でも、コロナウイルス感染予防策として、リモート内部監査やリモート二者監査に取り組んでいるという回答がたくさんありました。そういった企業/組織を審査される際には、どのようなことを確認されていますか。

野浦: 基本は通常の審査と同じですが、リモートで内部監査、二者監査を行う場合、当然ながら現地での監査に比して得られる情報は少なくなります。そのリスクをどのように評価し、次回の監査で重点的に製造現場を監査するなどの対策を考えておられるかをお聞きすることにしています。

コロナ後のリモート審査

IRCA: 今回、コロナウイルス感染予防対策として導入が進んだリモート審査ですが、コロナウイルスが終息したのちには、現地審査が正式、リモート審査はあくまで代替手段という形に戻ると思われますか。それとも、1つの正式な審査の形として、積極的な形で定着していくでしょうか。そう考えられる理由は何ですか。

野浦: 「#新しい日常」ではないですが、「#新しい第三者審査」という形で、顧客の要望に応じて定着していくと考えております。特にマルチサイトのお客様にとっては、移動時間削減、ガイド拘束時間、移動、宿泊、コストの削減につながります。また認証機関にとっても審査員の有効活用にもつながります。受審側、審査側、どちらにとっても利点がある以上、今後、後戻りすることは考えられません。
また、以前はIAF の基準文書でリモート審査は全体の30%以内と制限されていましたが、2018年の改訂でこの制限は取り払われていますので、その面からもリモート審査の活用が後押しされていると言えるでしょう。

◆ お話を伺って

緊急事態宣言の発令を機に、新型コロナウイルス感染予防対策のため、多くの企業でリモートワークが導入され、宣言解除後もリモートワークが1つの働き方をして定着していくだろうという予測が方々でなされています。
これと同じく、今回、緊急避難的に導入されたリモート監査も、効率的で機能的な監査手法として、定着していくことが十分に予想されます。それは、リモート監査には監査側にも被監査側にも多くの利点があるからです。
今回お話を伺ったLRQA での事例からは、ピンチをチャンスに変えるには立ち止まらずに積極的に動いていくことが重要であることが示唆されるとともに、LRQAでは実施に当たって、経験に基づき、リスクと機会が慎重に検討され、十分な対応策を取るよう、さまざまな準備が行われたことが伺えます。

CQI|IRCAは、クオリティ及び監査の専門家をサポートする組織として、海外も含めたリモート監査の事例をご紹介していきます。

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