CPDイベント報告『内部監査能力の育成』第2回 – 不適合を見つけたところから監査は始まる
2019年8月30日 (金)、CPD 推進イベント『内部監査能力の育成』の2回目のセッションが行われました。今回のCPD 推進イベントではIRCAのQMSプリンシパル審査員であり、IRCA認定研修機関 株式会社エル・エム・ジェイ・ジャパンの講師である青木明彦氏がコーディネーター/講師となり、月に1回ずつ、7月から12月まで6回連続で内部監査能力とは何か、どのように内部監査を実践するかを追求していきます。
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今回のセッションは、前回の振り返りから始まり、それを踏まえ、午前は「それぞれの組織に合致したQMSのあるべき姿」、午後は想定問答を用いて「適合性監査と有効性監査はどこが違うのか」についての討議を行いました。
今回のセッションにおける青木講師の重要ステートメント:
1) 前回の振り返り
前回は、本イベント全6回を貫くテーマである、「付加価値の高い内部監査」について、そもそもの話があり、付加価値の高い内部監査を実現するための前提として、「2015年版の要求事項が意図するところは何か、今までと何が違うのか」を復習することが目標として設定されていました。
● 付加価値の高い内部監査とは
9001規格の内部監査に関する要求事項 (2015年版では箇条 9.2) を確認すると、そもそも1987年の初版から一貫して、「適合性」と「有効性」を監査しなさいと書いてある。
有効性 ⇒ システム監査 ⇒ パフォーマンスを見る
(1) プロセスのパフォーマンス (業務のつながりをPDCAで見る) (中級)
(2) 組織のパフォーマンス (QMS 戦略、製品・サービスなどのパフォーマンス → 「顧客クレーム」、「失敗コスト」は「なぜ」発生したか) (上級)
重要: 容易ではないが、最終的には、組織全体のパフォーマンスを監査するところまで行ければ、収益に直結する報告が提供でき、経営トップの関与するところに食い込める ⇒でもどうやって?
● 2015年版は何が違うのか
※ IRCAから豆知識: 実は2008年版でも performance という文言は7か所 (序文のほか、5.5.2、5.6.2、7.3.2、8.2.1) に出ていた (JIS Qでは0.3の9004に言及する部分を除き、「実施状況」や「成果」、「性能」などと訳されていた) が、2015年版では序文を含め、要求事項である4から10まで、すべての箇条、全22か所にperformance (2015年版では日本語でもパフォーマンス) という言葉が頻出している。
2015年版でもっとも注目されたのは、「リスクと機会」だったが、その陰に隠れてしまった重大なキーワードは「パフォーマンス」である。そもそも……
さて、ではパフォーマンス達成のために組織のQMSはどうあるべきか ?
第1回ではISO 9001:2015の意図するところを学習したが、QMSをISO 9001に合わせて構築してはだめ ⇒ ダブルスタンダード、QMS形骸化の元凶、組織のパフォーマンス達成に役立たない
まず重要なのは、組織の文化、規模、製品に合致したQMSを構築することであり、これがISO 9001の意図に合致していればOK ⇒ 組織の目的であり、規格の意図するところでもある組織のパフォーマンス達成に結びつく
2) 組織に合致したQMS のあるべき姿
今回から3つのグループに分かれ、グループ討議が行われました。1つ目のテーマは、参加者それぞれの組織でQMS が形骸化していると思える点はどこか、そしてそれを改善するためには具体的にどうしたらよいのかです。
グループごとにそれぞれの実例を元に、熱心な話し合いが行われました。トップからの援助がない中、研修という形で部課長同士のディスカッションの場を提供することにより部課長の当事者意識を高め、巻き込み、プロセス間の疎通が図られ、社内の空気が変わり、トップの関与までも引き出したという、ボトムアップからの改善の成功事例の発表もあり、皆の注目を集めました。
形骸化を防ぐため、QMSと事業活動を一緒にするとどんなメリットがあるかについて話し合ったグループは、結論として、QMSと事業活動の統合は仕事を回りやすくし、手戻りも減るというメリットを導き出していました。また、品質/クオリティとは何かということについて、「品」質という日本語に惑わされず、仕事の質/クオリティ、例えば会議のクオリティ、社員のクオリティといった観点も必要であるというグループもありました。
今回のイベントでは、結論は提示できないし、しない、皆が自分で考えるきっかけとなるセッションとしたいという趣旨を度々強調する青木講師は、形骸化を防ぎ、組織に合致したQMS を構築、運営していくためには、「実績で説得する」ことが重要であるというヒントを提示しました。
また、前回から繰り返し強調されていたのは以下です。
一般論、理想論、精神論 ⇒ 評論家 ⇒ ×
現実論、具体論 ⇒ 改善指導者 (未来に向かう) ⇒ ○
★ 内部監査に関わる要員は改善指導者を目指さなければならない
(3) 適合性監査と有効性監査はどこが違うのか
2つ目の討議では、適合性監査と有効性監査の想定問答を用いて、適合性と有効性の監査は何が違うのか、方法はどうか、結論はどうかが話し合われました。
想定問答は、想定なので極端な形であり、当然、規格は適合性と有効性の両方を見ることを要求しているわけですが、この2つの監査の違いとして:
適合性監査の例では「不適合を見つけることが目的となり、そこで監査が終わっている (適合性のみを見ている)」
のに対し、
有効性監査の例では「不適合を見つけたところが出発点であり、そこから監査がどんどん進んでいる (適合性と有効性の両方を見る)」
ということ、
適合性監査では「過去の記録」が重視されている
のに対し、
有効性監査の例では、「今現在の状態はどうなのか、これからどうなのか」を対象としている
ことが示されていました。
なお、各グループの発表のあと、青木講師から、上記のような、想定問答各々の意味の解説がありました。また、監査員の心得として、監査のときだけに監査対象部署を訪れるのではなく、日頃からときどき訪問して、雑談の形でコミュニケーションを取っておくことが大事であるとのアドバイスがありました。
(4) 次回のセッション
次回は、「不適合監査の不適合から組織のQMS弱点を引き出すことができる」ようになることを目標として、いよいよ具体的に付加価値のある監査の進め方を学んでいきます。
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