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CPDイベント報告『内部監査能力の育成』 第3回 – トップを本気にさせるには実績を示すしかない!

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CPDイベント報告『内部監査能力の育成』 第3回 – トップを本気にさせるには実績を示すしかない!

2019年9月27日 (金)、CPD 推進イベント『内部監査能力の育成』の3回目のセッションが行われました。今回のCPD 推進イベントではIRCAのQMSプリンシパル審査員であり、IRCA認定研修機関 株式会社エル・エム・ジェイ・ジャパンの講師である青木明彦氏がコーディネーター/講師となり、月に1回ずつ、7月から12月まで6回連続で内部監査能力とは何か、どのように内部監査を実践するかを追求していきます。

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前回、別々のケーススタディで示された適合性監査と有効性監査は現実には別々に行うわけではありません。2つを同時に行うためにはどうしたらよいか、そして問題を顕在化するために不適合をチャンクアップする方法を学ぶことが今回のセッションの目標として設定されていました。まず前回までの振り返りがあり、参加者の1人から、前回宿題となった部門監査とシステム監査に関する課題のプレゼンもありました。その後、「何をすればISO9001が経営のツールになるのかーどうやってトップを説得するか」についてのグループ討議があり、「適合性監査と有効性監査はどこが違うのか」についての課題とその解説、最後に「不適合報告書のまとめ方」についてのセッションが行われました。

1つ目の討議では、各グループのプレゼン後、監査員の力量のマネジメントと評価についての話にまで広がり、参加者からの疑問やそれに対して示された他の参加者からの実例など、非常に興味深いディスカッションが展開されました。

今回のセッションにおける青木講師の重要ステートメント:
●   CAPDo - PDCA はCAから始める!
● 内部監査で探すのは不適合じゃない。内部監査の目的は問題点を見つけて直すこと!
● トップを本気にさせるには実績を示すしかない!

1) 前回までの振り返り

1回目のセッションでは、ISO 9001:2015の要求事項の意図するところは何か、改善であるという話がありました。決めたことを守るのは当然のことであり、2015年版では、パフォーマンスをよくするために改善しなさいということが特に強く求められていること、そのためにPDCAがあるということが再確認されました。これに関連し、パフォーマンスを改善するためには、CとAが重要であること、Pの計画を立てるためには、まずCで現状がどうであるかを測定、分析し、それに対して実施した処置対策、つまりAがあり、それによりPも変わってくる、したがって、PDCAはCAから始めるべき、CAPDo という言葉がISO 9001の世界では浸透しているという話がありました。

2回目のセッションは、適合性監査と有効性監査についてでしたが、振り返りとして、その際に使用したケーススタディを例にとり、監査員教育におけるケーススタディの取扱いについての示唆がありました。対照的な短い問答集の形を取るケーススタディを新人の監査員教育で使う場合、そのどちらが正しいかどうかを決めるのではなく、そういう場面に遭遇したとき、監査員であるあなたはどうしますかという視点で使うと有効であるとのことです。また、適合性監査であれ、有効性監査であれ、部門監査であれ、システム監査であれ、内部監査の目的は不適合を見つけることではなく、問題点を見つけて直すことであるということが繰り返し強調されました。

2) 何をすればISO9001が経営のツールになるのかートップマネジメントをどうやって説得するか

ISO 9001は経営のツールだと言われることがよくあるが、本当だろうか。経営のツールだったら、トップマネジメントは真剣にISO 9001に取り組むのではないだろうか。経営のツールですということを、どうすれば会社の管理層に説明することができるかについて3つのグループに分かれ、討議が行われました。

Aグループ: 自分のところはうまく行っていないのに、会社の規模が似ていてMSが同じである、他のメンバーの会社ではトップ主導のQMSが非常にうまく回っているということだった。どこが違うのかと考えたとき、クレームや不具合の防止、製品開発などにISOの仕組みが役立っているという実績をマネジメントレビューのインプットとして確実に示すことができる仕組みが機能しているかどうかということが違いであると感じた。
Bグループ: このグループのそれぞれの会社のトップはISOをやるのだったら、ちゃんと結果を出せというスタンスであり、必ずしも否定的ではないが、部門長などにはネガティブな人が結構いる。ネガティブな人を説得するにはどうするかと置き換えたところ議論が盛り上がった。ネガティブな人の話を聞き、出てきた問題点に対し、それを解決するためのツールとしてどのようにISOを使えるかを説明する。上の層の人たちは基本的に頭がいい人たちなので、やることのメリットとデメリット、納得できる根拠をきちんと論理的に説明すれば、一緒にやってください、考えてくださいというスタンスで協力を得られるのではないか。
Cグループ: これまでもISO取得のメリットはそれぞれがトップに説明してきたが、受け入れないトップもいれば、会社経営として当たり前のことだという反応のトップもいた。現状を見てみても、ISOをやってきたことにより、例えばトレーサビリティを取ることなどももう当たり前のことになってきている。QMSを運用することにより、それが自分たちの文化として吸収されてきている。そういう実績として上がってきていることがアピールポイントになるのではないか。

それぞれのプレゼンに絡めて、質疑応答やディスカッションが行われました。特に3グループすべてのプレゼンが終わってから、監査員をどう育てるか、どのように力量を管理するか、力量には資質/性格も含まれるのではないか、どうやって評価するか、どうやったら評価を給料にまで反映できるようになるかなど、それぞれが自分たちの実例を紹介しながら、熱心な討論が展開されました。

3) 不適合と改善課題

演習のために用意されたケーススタディと監査メモを用いて、不適合を見つけたところから、それをどうやったら改善課題にもっていくことができるかについて確認しました。

  1. 適合性の観点で洗い出された不適合は深堀りして行けば原因がわかり、有効性の監査となる
  2. 監査テーマ: トップに報告するときは、監査テーマに対する結論を述べる。例えば、クレーム削減がテーマだったら、クレーム削減を阻害する問題はあったのか、なかったのか。
  3. ISOではなく、社内ルールに対する指摘としたほうが管理職は納得しやすい。
  4. 監査テーマにつながる不適合はどれか クレーム削減を阻害する問題を発見するという監査テーマでトップに許可をもらって監査にいったにもかかわらず、テーマとつながらない不適合を報告してもトップは納得しない

4) 指摘のチャンクアップの方法

なぜ指摘をチャンクアップする (まとめる) 必要があるのでしょうか。

● 経営トップの期待に応える内部監査とするため
小さな人的ミスを1件1葉で処理するやり方も間違いではないが、きりがない。できればトップが気にすること、つまり会社全体の弱点がどこにあるのか、QMSの弱点がどこにあるのかという見方で報告したほうがトップは興味を示す。

つまり、いろいろな部署で見つかった似たような不適合をチャンクアップして会社全体の問題として提起するという方法を取ることができるということです。

今回はケーススタディを読んで、発見した不適合や改善課題、約40件からどれとどれをチョイスして1枚の報告書に仕上げるかという方法を学びました。

まとめ方は3種類のサンプルで提示されました。

  1. ISO 9001の要求事項でまとめる: 適合性
  2. 社内ルール、規定、手順書でまとめる: 適合性―社内規定にそぐわないものがこれだけあったと報告すれば、トップは興味を示す
  3. 監査テーマでまとめる: 有効性―監査テーマについて問題点を報告すれば、トップはより興味をしめす

この3種類のチャンクアップされたサンプルの是正処置要求書を確認して、それぞれどのようにチャンクアップするかを学びました。3つのまとめ方のうち、やってほしいのは監査テーマ (トップが求めるテーマ) に対する指摘が最優先、2番目は社内ルール (ISOの専門家以外にもわかりやすい) に対するもので、ISO に対する指摘は第三者審査に任せてよいのではとのことでした。

また、内部監査の付加価値を高める方法 4つのポイントとして以下が挙げられました。
1 トップが関与しているか
2 被監査部門の協力
3 内部監査の進め方 適合性だけでなく、有効性の監査に変えていく
4 内部監査員の力量と認識

最後の内部監査員の力量については、新人監査員の指導、教育について具体的なヒントも交え、提示がありました。

5) 次回以降のセッション

今回で3回目のセッションとなり、グループ、あるいは全体での討議もますます熱を帯びてきています。次回からは、想定問答集は用いず、いよいよ台本のない有効性監査の進め方を学んでいきます。

具体的には:
● 4回目は、フローチャート、ルール、記録などの品質データを使い、この会社の弱点がどこにあるかを分析し、監査テーマを見つける
● 5回目は被監査側の課長を演じる青木講師をインタビューし、逃げる課長を説得することをやってみる
● 6回目は、それを報告書にまとめてトップに報告する

いかにトップが納得する監査にもっていくか。これまでの3回は考え方を理解するためのセッション、次回からがいよいよ本番となります。

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