印刷機とポピュリズム: 21世紀初頭の品質マネジメントに影響を与える社会動向
CQI|IRCAのCEO、ヴィンセント・デズモンド (Vincent Desmond) のブログ記事 (The Printing Press and Populism:The trends that will impact quality management in the early 21 Century) です。どんどん進化するさまざまな革新的なテクノロジーが品質マネジメントに与える影響について考察します。
Global Trade 世界貿易
20世紀後半は貿易障壁を次々と取り払っていったのに対し、今世紀は、より保護主義的かつ敵対的なアプローチへと変化しつつあるように思われます。現在、起こっている例を取り上げても、韓国と日本、英国とヨーロッパ、そしてアメリカと中国の間に問題があります。この背景には、中国の影響に対するより大きな動きと、市場開発の点においてアジア、アフリカ及び南米の重要性が増していることがあります。これらすべてにより、組織はビジネスモデルとサプライチェーンモデルについての検討、変更を余儀なくされ、サプライチェーンでは、品質について新たな課題が生じるでしょう。
Technology テクノロジー
テクノロジーの影響はすでに広範囲に及んでいます。8月に東京を訪問した折、東京駅までのタクシー内のディスプレーには、カメラ使って推定した私の年齢、性別と国籍に合わせた、私により関連する広告や、情報が映し出されていました。例えばビジネスニュースや旅行に関する情報などです。接続性、データ収集、計算能力やロボット工学が組み合わさり、組織は自らのビジネスモデルや戦略の検討、変更を迫られています。そして、テクノロジーは、品質のマネジメントに新たな課題を突き付けています。テクノロジーはマネジメントシステムを覆し、問題解決のためにデータを利用する方法を混乱させ、個々人に合わせた製品及びサービスを提供するために人々のデータを利用する、また人間のもつ倫理基準をもたずに人間と同じような判断を下すためにAI を利用するという倫理的な課題を組織にもたらしています。
システム、プロセス及びサプライチェーンの保証や、製品テスト及び検査のビジネスは変わっていくでしょう。例えば、最近、私は世界的に大きなエネルギー企業の1つを訪問しましたが、その企業の品質部門は、サプライチェーンの端から端までのマネジメントを改善するために分散型台帳技術 (DLT) を利用することの価値や実用性を検討し、コンポーネント製品の来歴の追跡可能性をテストするために、自社のテクノロジー及びイノベーションのユニットや認証機関と密に連携していました。最近出たボストンコンサルティングの報告書 (‘Testing, Inspection, and Certification Go Digital’, Jens Riedl, Eric Ritsema, Stijn Allema, and Patrick Rouvillois, Boston Consulting, December 2018)では、グローバルなTIC (Test 試験、Inspection 検査及び Certification 認証) 企業が、世界に広がるサプライチェーンをサポートするために現在、人力で実施している試験や検査の、大部分ではなくても、一部はテクノロジーに取って代わられると見込んで、テクノロジー企業をいかに買収しているかに注目しています。
審査員が価値を付加するためには、これらのテクノロジーを理解する必要が出てくるでしょう。自動化されたシステムの設計と運用がステークホルダーの要求事項を満たしていることを確認するために、どのように審査を行いますか。サプライチェーンで製品の来歴を証明するために利用している分散型台帳技術 (DLT) ベースのシステムをどのように審査しますか。単に一般的なテクノロジーを理解するだけでなく、組織がテクノロジーをどのように実験し、適用しているかも理解するということが答えとなるはずです。
現在、私たちが経験しているような変化とイノベーションのスピードからすると、システムや製品が設計された後に関与するのでは遅すぎるということなるでしょう。内部及び外部の保証の提供者が、信頼と保証が組み込まれているということを理解し、助言するためには、組織あるいは依頼人と協力する必要があります。例えば、英国の医薬品規制当局であるMHRA は、R&D サイクルの初期の段階で製薬企業と密接に連携し、従来の長期にわたる開発と承認のサイクルを経ることはできない革新的なパーソナライズド・メディスン (個別化医療) のための品質保証と規制事項についてアドバイスができるよう、試みを始めています。
Societal Norms 社会規範
100年前、CQIが設立された当時、英国の女性はやっと投票権を得たところでしたが、それも財産を所有している女性のみの権利でした。社会規範はそれ以来、著しく変化しています。その結果、社会は組織に対してより多くの期待を寄せ、要求を課しています。例えばISO マネジメントシステムは、顧客のための製品品質から、環境保護、安全、セキュリティや倫理的な行動をカバーするまでに成長しています。インターネットの普及に伴い、組織は自らの貧弱なパフォーマンスや行動を隠すことができなくなり、悪いニュースは瞬時に地球規模で広まります。このような否応なしに強いられる透明性は、21世紀を「信頼」の世紀にするでしょう。マネジメントシステムでは、方針、プロセス及び日常の文化と意思決定にすべてのステークホルダーの要求事項を取り込むことができます。ビジネスアシュアランス、審査/監査 (内部及び外部の両方)、さらに透明性のある報告を通じて、私たちはパフォーマンスに自信を与えることができ、悪いニュースがあるところや悪いニュースが起こる可能性を特定する手助けをすることにより、組織は早期に対応することができます。マネジメントシステムの専門家は、人々がビジネスを行う上で正しいことを確実に行うよう手助けをする組織の良心として、自らを位置付ける必要があり、私たちは、信頼の人になる必要があります。
Demographics 人口動態
ほとんどの先進国に共通する問題に、高齢化があります。高齢者を支えるためにだれが働くのかという懸念は、おそらく、テクノロジーを用い、より少ない人間の努力でたくさんのことができる社会となることにより、部分的には解決されるでしょう。しかし、それはそれとして、人口動態と社会の変化は、新しい働き方、キャリアパスや仕事に対する期待へと駆り立てます。私たちにとって重要な課題は、次世代のマネジメントシステム専門家をどのように惹きつけ、育成していくか、そして、先に述べた動向に対処するために、次世代の専門家に必要なスキルや行動様式はどのようなものかということです。未来を先取りして考える組織やリーダーは、すでにこれについて考え、データサイエンスのような新しいスキルをもつ人を採用したり、育成したりする計画を立てています。
Conclusion 結論
変化のスピードに対処するため、マネジメントシステムの専門家やチームは、予想できる急激な変化や展開を理解するために外の世界に目を向け、これまでより一層、専門家としての継続的な学習や自己開発に注力する必要があるでしょう。特に、デジタルシステムや新しいビジネスモデルの開発段階においては、新しい働き方を保証する要素について確実に助言できるよう、組織や依頼人と密接に協力する必要があります。そして、マネジメントシステムと私たちの専門的職務を信頼のプロフェッショナルとして売り込むことができるようにならねばなりません。