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マネジメントシステムにおける管理責任者の退場

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マネジメントシステムにおける管理責任者の退場

         Photo credit: Designer491


安全衛生の専門家であり、Lead Auditor であるDr Christel FoucheがISO 45001に照らした審査を成功させる経験について語り、OHSAS 18001 からの移行による変化にどのように対応するかについて説明します。彼女にとって、この移行による大きな変化は、マネジメントシステムにおける管理責任者の退場と、トップマネジメントの登場でした。

quality.org の英文記事はこちら

OHSAS 18001で管理責任者の任命が要求事項となっていたときは、審査ははるかに簡単でした。しかし、ISO 45001では管理責任者はもはや要求事項ではありません。長年にわたり、私はかなりの数の審査を実施し、たくさんの管理責任者と仕事をしてきました。私は審査プロセスにおける管理責任者の役割を知っていましたし、あらかじめ用意した質問のリストがあり、どの文書を要求したらよいかもわかっていました。管理責任者と私が居心地の悪い沈黙の中に座って、審査を放棄する理由となるような状況についての説明を聞くようなこともありました。

とにもかくにも、私はすべての審査を乗り切ってきました。ある日、BS OHSAS 18001 からISO 45001:2018に変わったことにより、管理責任者がもはや要求事項ではなくなってしまった時までは。

この変更によりいくつかの難問が浮上しました。通常、トップマネジメントは1人の人に安全衛生マネジメントシステムの責任を委譲し、自分はタッチしないというアプローチを採用していました。ISO 45001の場合、後述するように、最初の時点からどうあるべきかというところが変りました。

新しい規格でなぜ管理責任者がなくなったかという理由はすぐに明らかになりました。ISO 45001:2018 には (附属書SLに準拠した) 上位構造の箇条、つまり箇条5 「リーダーシップ及び働く人の参加」があります。

ISO 45001の箇条 5.1 (リーダーシップ及びコミットメント) では、トップマネジメントは労働安全衛生 (OHS) マネジメントシステムについてリーダーシップとコミットメントを実証しなければならないとしています。トップマネジメントが実施しなければならない要求事項には以下のものが含まれています。

  1. 労働に起因する負傷や疾病の予防、並びに安全で衛生的な職場及び活動を提供することに対して全般的な責任と説明責任を負う
  2. 労働安全衛生方針及び関連する労働安全衛生目的を策定し、これらが組織の戦略的方向性と両立していることを確実にする
  3. 労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項を組織の事業プロセスと統合させることを確実にする
  4. 労働安全衛生マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、改善するために必要な資源が利用可能であることを確実にする
  5. 効果的な労働安全衛生マネジメントシステム及び労働安全衛生マネジメントシステム要求事項への適合が重要であることを周知する
  6. 労働安全衛生マネジメントシステムが意図する成果を達成することを確実にする
  7. 人々が労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に寄与するよう指揮し、支援する

この変更に対応するため、私は以下のように自問しました。

  • この変更を自分はどう扱ったらいいだろうか?
  • 私がこれまで試行錯誤して確立した審査のアプローチはまだ使えるだろうか?
  • 私の万能検証質問集は変更しなければならないだろうか?
  • 私の証拠探しの探りに対し、トップマネジメントはどう対応するだろうか?


これまでの管理責任者との面談は、トップマネジメントとの面談に取って代わられました。通常、役員会のメンバーとCEO に面談しますが、これは審査の適用範囲における「トップマネジメント」はだれかにもよります。

最初は、これまでの自分のやり方を捨てて、適合性を検証するのに必要な証拠を集めるための新しい戦略を考案しなければならなかったので、少々苦労しました。また、これまで管理責任者と面談してきた方法と、CEOと実施する面談には大きな違いがあることもわかりました。私にとって、重要な違いの1つは、ほとんどの管理責任者との面談では創造的な説明がさまざま含まれていると感じていたのに対し、CEO の返答はもっと確固としており、的を射たものであるということです。

トップマネジメントに聞く

以下は、現在、私が日頃、CEOや経営陣に問いかけている質問の一部です。このリストはまだ作成中のものですが、CEO が関心を示し、気をそらさないようにするため、常に磨きを掛けています。

  • 御社の労働安全衛生マネジメントシステムの運用及び維持に関する3年間の戦略計画を教えてください。

  • それを達成するためにどのような目標を立てられましたか?その目標の設定に関与されましたか?

  • 御社の事業運営における安全衛生上のリスクの上位2つを挙げてください。その重大なリスクは、戦略的成功計画に対してどのような影響をもつ可能性がありますか?

  • 規格は労働安全衛生マネジメントシステムの実施と維持にプロセスアプローチを適用することを要求しています。この概念をどのように理解し、どのように適用していますか?

  • 組織内外の人々に対して、労働安全衛生と御社の計画をどのように推し進めていますか?

  • 計画を成功させるのに十分な資源をどのように確保しますか?


私は、いくつかの認証機関の質問リストと、その他インターネットで見つけた質問リストを見てみました。ほとんどのものが、規格の箇条の内容を「はい」、「いいえ」で答える質問にしたものでした。私からすると、これでは十分だとは言えません。優秀な審査員は、CEO やトップマネジメントに面談するこの機会をもっと有効に活用できます。

面談のヒント集

CEO は組織のリーダーであるということを念頭に置くことが重要です。CEO の時間は限られており、貴重です、また、CEO も私たち、ほかの者と同じく人間ですから、ほかのだれかに対するのと同じようにお近づきになる必要があります。

CEOの主な役割とスキルは労働安全衛生ではありません。ですから、質問は明確で簡潔でなければなりません。面談の際に、CEOがどのように答えるのか、適切な答えを見つけられないようだと感じたら、どのような答えがありえるかを明確にして助けましょう。

トップマネジメントとの面談は、コーチングし、知識を共有するための貴重な機会です。常に、「はい」、「いいえ」で答えるのではない質問からスタートし、返ってきた答えに基づいて、さらにフォローアップの質問をしましょう。求める結果は、ISO 45001:2018の労働安全衛生マネジメントシステム規格要求事項に適合するという文脈においてCEO自身が自分の役割と機能を明確に理解しているということです。常に、前向きな雰囲気で終わるべきです。

よい印象

CEO と役員会メンバーを含むトップマネジメントとの面談では、トップマネジメントの安全衛生に関する見識や知識、また、労働安全衛生マネジメントシステムに対するコミットメントに関する重要な情報を得ることができます。

今でも、箇条5.1に関して初めてCEO と面談したときのことを覚えています。最初は少しストレスを感じましたが、最終的にはうまく行きました。面談後、自己評価して出てきた結論は、面談は出だしが肝心だということです。

出だしがうまく行ったとどうしたらわかるでしょうか。私の考えでは、面談としてスタートして、最終的に会話として終わったときです。自分がいなくなった後もずっと、CEO のためになり、労働安全衛生マネジメントシステムの将来のビジョンが改善されるような意見交換をする会話です。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018