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品質監査におけるオブザーバーと技術専門家の役割

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品質監査におけるオブザーバーと技術専門家の役割

アンドリュー・ウォード (Andrew Ward CQP MCQI) が、監査におけるオブザーバーと技術専門家の役割、そして円滑な監査プロセスを確保するために必要な基本ルールについて概説します。

オブザーバーと技術専門家

品質監査では、中核となる監査チームだけでなく、オブザーバーや技術専門家が同行することもよくあります。オブザーバーや技術専門家は付加価値をもたらしますが、監査が軌道から外れないように、その役割を明確に定義し、マネジメントしなければなりません。適切な枠組みがなければ、特にそのオブザーバーや技術専門家が監査プロセスに不慣れな場合、その存在が混乱を引き起こす可能性があります。

本稿では、監査におけるオブザーバーと技術専門家の明確な役割、さまざまな段階での関与、スムーズな監査の流れを維持するために必要な基本ルールについて見ていきます。

オブザーバーの役割

オブザーバーは通常、どのように監査が実施されるかを立ち会って観察し、監査チームと被監査者の間の議論を聞きます。透明性を確保するために、監査依頼者が任命する場合もあります。しかしながら、オブザーバーは質問や意思決定に関与しないことを認識することが重要です。

オブザーバーには、特別な資格や監査スキルは要求されません。オブザーバーの存在は主に監視のためであり、その関与は常に主任監査員の裁量に委ねられます。主任監査員は、特にオブザーバーの存在が監査の妨げになる場合、いつでもオブザーバーの出席許可を取り消すことができます。

また、オブザーバーは監査の機密保持プロトコルを厳守しなければなりません。いかなる機密保持違反も深刻に受け止めなければなりません。そして違反は重大な結果を招く可能性があります。

技術専門家の役割

オブザーバーとは異なり、技術専門家は監査に関連する特定の技術分野の専門知識を補完するために招聘されます。技術専門家は、監査チームが技術的な側面を評価するのをサポートし、複雑な所見が正確であり、正当な知識に基づいたものであることを保証します。

しかし、オブザーバーと同様、技術専門家は監査を実施するためにいるわけではありません。主任監査員と監査チームに意見を提供するためにいるのです。技術専門家のどの質問を被監査者に質問するかは、主任審査員が決定し、通常、主任監査員から質問しますが、主任監査員から指示があれば技術専門家が質問します。

監査の計画策定では

監査の計画段階において、オブザーバーと技術専門家の役割を明確に定義する必要があります。オブザーバーについては、機密保持規定のほか、監査そのものに参加するわけではないという役割を理解することが不可欠です。監査中に起こりうる誤解を避けるため、その目的を明確にするべきでしょう。

技術専門家の場合、計画段階で、監査の範囲とその専門知識が必要とされる領域についての説明が行われます。技術専門家が関与するにあたり、監査の目的と一致してる必要があるからです。主任監査員は、技術専門家の関与が合意された範囲を超えないようにしなければなりません。

この段階で、技術専門家が監査のどの部分で立ち会うかを計画することも重要です。オブザーバーや技術専門家は、余計な混乱や遅延を防ぐため、監査において意見の提供が必要な部分にのみ出席するのが望ましいでしょう。

監査前の打合せ会議では

審査が始まる前に、オブザーバーと技術専門家に対し、主任監査員は詳細な説明をしなければなりません。そうすれば、参加者全員がそれぞれの役割と関与の境界を理解することができます。

オブザーバーに対しては、監査の目的、適用範囲、どのように行動すべきかをこの打ち合わせ会議で説明します。オブザーバーは、被監査者に直接質問してはならないということを理解する必要があります。疑問や懸念がある場合は、主任監査員に伝え、監査中にそれを提起すべきかどうかは主任監査員が決定します (下表参照)。

主任監査員からオブザーバーへの説明内容
役割 参加するためではなく、観察するためにそこにいるということを確認する。
責任 メモを取ったり、スケジュール通りに時間を管理するなど、責任の内容を具体的に詳しく説明する。
プロセス 監査で何が期待されるかを理解できるように、監査のプロセスを説明する。
行動 監査のプロセスを説明し、監査で何が期待されるかを理解してもらう。
コミュニケーション すべての疑問点は主任監査員に伝え、必要に応じ、主任審査員が質問する。
機密保持 機密保持の重要性と、すべての情報を保護する必要性があることを確認する。
文書化 監査範囲と質問事項をレビューし、監査の仕組みとその中でのそれらの位置づけを説明する。
確認 質疑応答で説明内容を理解したかを明確にする。


技術専門家は、評価対象となる特定の技術分野を把握する必要があるため、よりカスタマイズした打合せを必要とします。技術専門家は、所見をどのように主任監査員に伝えるか、また、どのような場合に自分たちの意見が必要となるかを知っておく必要があります。技術専門家の関与は、監査の範囲に沿ったものでなければならず、適切なチャネル (下表参照) を通じて技術的な見識を提供できるよう準備しておく必要があります。

主任監査員から技術専門家への説明内容
役割 監査チーム内での役割を概説する。
責任 提示された技術的根拠を評価し、技術的知識でチームをサポートする。
プロセス 監査で何が期待され、どのような分野に重点が置かれるかを理解できるように、監査のプロセスを説明する。
行動 期待される行動基準と監査エチケット、及び監査中に技術専門家はどのようなやり取りをするかを説明する。
コミュニケーション 所見や洞察を監査チームにどのように伝えるかを説明する。別途指示がない限り、主任監査員を通じてやり取りをする。
文書化 監査プログラムに合わせて、どのような技術文書がレビューのために提出されることが期待されるか、またその可能なタイムスケールについて説明する。
確認 質疑応答で説明内容を理解したかを明確にする。

監査中は

監査が開始したら、オブザーバーと技術専門家は、計画と打合せの段階で設定されたガイドラインを遵守しなければなりません。オブザーバーは、被監査者との議論に参加することはせず、メモを取ることに専念すべきです。質問や懸念がある場合は、主任監査員に伝えなければなりません。

技術専門家は、監査中に自分の見識を提供する場合がありますが、それを述べるには適切な手続きに従う必要があります。例えば、技術的な問題があった場合、技術専門家はその分析を主任監査員に提供することができますが、被監査者にその問題を提起するかどうかを決定するのは主任監査員です。これにより、監査は軌道から外れることなく、混乱を避けることができます。

オブザーバーと技術専門家は、監査全体を通じて、機密保持を厳守しなければなりません。両者は機密情報に接することになり、機密保持違反があれば監査の完全性に重大な影響を与える可能性があります。

監査報告書に関しては

監査が終了すると、焦点は監査報告書の作成に移ります。オブザーバーは通常、この段階で直接的な役割を担うことはありませんが、フィードバックを提供したり、所見に関する議論に参加するよう依頼されることもあります。ただし、最終的な報告書の内容に影響を与えることはありません。

一方、技術専門家は、特にその専門知識が不適合や改善のための推奨事項の特定に対して非常に重要である場合、より積極的に関与する可能性があります。いずれにせよ、主任監査員は監査報告書の内容に関する全権限を保持します。技術専門家の意見はあくまでも助言的であり、どの所見を含めるかは主任監査員が決定します。

まとめ

オブザーバーや技術専門家は、品質監査に付加価値を与えることができますが、混乱を避けるために、その役割を明確に定義しなければなりません。オブザーバーは監視役ですが、参加する役割はありません。一方、技術専門家は技術的な見識を提供しますが意思決定者ではありません。明確な計画、徹底的な説明/打合せ、基本ルールの遵守があればこそ、監査プロセスの完全性を損なうことなく、監査プロセスが強化されます。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018