気候変動の緩和と構造化されたリスク評価
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構造化されたリスク評価は、組織が気候変動を緩和しながら国連の持続可能な開発目標を達成するのに役立つだろうか、とCQIの持続可能性 SIG (Special Interest Groupの 委員長であるゾイ・コントディモウ (Zoi Kontodimou) は問いかけます。
気候変動目標を達成するためのメカニズム
気候変動は世界が直面する最も重大な課題のひとつであり、緊急の関心と行動を必要としています。2015年のパリ協定は、参加国に対して野心的な炭素削減目標を設定し、世界の気温上昇を産業革命前レベルから1.5℃未満に抑えるという目標を掲げて、この問題に対処することを目指しました。
パリ協定は第6条で、各国が自主的に協力して、気候変動目標を達成するためのメカニズムを定めています。この協力は、気候変動に対処し、開発途上国への財政支援を引き出すために極めて重要です。
気候変動への対応と持続可能な開発目標 (SDGs)
過去数年間、炭素排出量を削減するためにいくつかのプロジェクトやイニシアティブ、活動が実施されてきましたが、その多くは共通する不備のために成功しませんでした。不備とは、それらが主に「炭素ビジョン」によって推進され、しっかりしたリスクマネジメントプロセスや国連の持続可能な開発目標 (SDGs) の17項目すべてを達成するという包括的な必要性を十分に考慮しなかったということです。
2025年には、パリ協定に基づく各国の気候変動行動計画 (NDC) が、現状に対応するよう必要に応じて改定されます。この新しい目標がより野心的なものになり、気候変動の影響をより効果的に緩和できるようになることが期待されています。
パリ協定の下で、第6条4項が提示するメカニズムは、排出削減及び除去プロジェクトから創出されたクレジットを各国が取引できるようにする市場ベースの手段として機能します。このシステムにより、ある国の削減量を他の国の気候変動目標に算入することができるのです。その目的は、検証可能な排出削減の機会を特定及び促進し、こうした取り組みのための資金を集め、国やその他の団体間の協力を促進することで、費用対効果の高い気候変動解決策を目指すということです。
このメカニズムに参加するすべてのプロジェクトは、持続可能な開発へのプラスの影響を認識し、強化するだけでなく、環境及び社会問題への潜在的なマイナスの影響を特定するために評価されなければなりません。
持続可能な開発 (SD) ツール
そのための指針となるのが、第6条4項「持続可能な開発ツール」であり、次の内容が規定されています。
- 環境的及び社会的セーフガードの原則、基準及び評価の要求事項
- 提案された活動の持続可能な開発への貢献を特定するためのガイダンス
- ホスト国の持続可能な開発目標を考慮に入れ、提案された活動がどのSDGsに影響を与えるかを決定するためのステップ
- SDGsとそれぞれの目標に基づいたモニタリング指標を確立するための原則
第6条4項の持続可能な開発 (SD) ツールは、炭素市場と排出削減における国際協力がSDGsと整合し、排出削減に取り組む際に地域の環境、社会、経済の目標が損なわれないようにするよう設計されています。
SDツールの大きな利点のひとつは、低炭素経済への移行を促進しながら、環境的、社会的、経済的利益を統合できることです。これにより、第6条4項に基づくプロジェクトは、排出削減のみに焦点を当てるのではなく、地域社会への利益、社会的公正 (equity)、貧困の緩和、環境保護、経済発展など、より広範な持続可能な開発目標に貢献することが保証されます。
この包括的なアプローチは、プロジェクトがより広範な環境問題や社会問題に取り組むことなく、二酸化炭素削減を優先する「グリーンウォッシュ」のリスクを軽減するのに役立ちます。
SDツールの重要な特徴は、地域社会やその他の利害関係者のきちんとした関与を要求事項としていることです。これにより透明性が促進されるだけでなく、炭素プロジェクトの影響を受ける人々のニーズや要望が特定され、評価され、意思決定プロセスに組み込まれることが保証されます。
SDツールでは、プロジェクトが「持続可能な開発を促進する」と認められるための基準が定められており、質の高いカーボンオフセットプロジェクトが奨励されています。これらのプロジェクトは、気候に関連する便益とともに関連しない便益をもたらし、環境と地域社会に永続的なプラスの影響をもたらすことが期待されています。プロジェクトでは、社会的及び環境的セーフガードを遵守し、移住や生物多様性へのマイナスの影響、そしてカーボンオフセットの取り組みから生じる可能性のある社会的損害のリスクを最小限に抑える必要があります。また、このアプローチは、ある地域での炭素削減が別の地域での増加によって相殺される「カーボンリーケージ」の回避にも役立ちます。
SDツールと炭素市場
6条4項のSDツールの導入は、炭素削減と全体的な持続可能な開発の両方の観点から、プロジェクトにその影響を報告することを義務付けることによって、炭素市場の透明性と説明責任を強化するために計画されています。これにより、炭素クレジットの購入者、プロジェクト開発者、政府など、すべての参加者がSDGsに沿って、それぞれのコミットメントに対して説明責任を負うことになります。SD指標を特定し、モニタリングし、検証する必要性は、プロジェクトの信頼性が高まり、総合的な持続可能性アプローチが実現します。
炭素市場が持続可能な開発にプラスの影響を与えることを保証することで、政府、投資家、地域社会などの利害関係者間の信頼を築きます。この強固なアプローチにより、炭素市場はより広範な持続可能な開発目標を効果的に推進し、すべての人のための持続可能な未来を確保することができます。
うまくいけば、6条4項のSDツールの使用が、構造化されたアプローチを持つ強制的な無害化リスク評価とともに、第一の目標である炭素削減だけでなく、SDGsにも貢献する、よりポジティブな結果を達成するための第一歩となるでしょう。
構造化されたリスク評価は、すべての炭素削減アプローチに欠けていた、持続可能性の他の側面を損なうことなく、より良い結果をもたらすという主要な要素となる可能性があります。このアプローチは、これまで以上に必要とされており、IWA 48:2024 Framework for implementing environmental, social and governance (ESG) principles (環境・社会・ガバナンス(ESG)原則を実施するための枠組み)やISO/UNDP PAS 53002:2024 Guidelines for contributing to the United Nations Sustainable Development Goals (SDGs) (国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に貢献するためのガイドライン) などの最近発行された文書でも、同様のアプローチが求められていることが明確に示されています。