クオリティのためのデミングマネジメント (パート1) 知識学 – 知識の理論
クオリティのためのデミングマネジメント (パート1) 知識学 知識の理論
4回シリーズでお送りするクオリティのためのデミングマネジメントの第1部では、デミングの深遠なる知識のシステム(system of profound knowledge) が今日なお、どのように組織に適用されているかをアラン・クラークとトニー・コルィツキーが探究します。
私たちは、Quality World の2017年12月号に掲載した記事 (QW 32ページ “The relevance of Deming for today’s management参照) でW エドワーズ・デミング博士の深遠なる知識のシステム (SoPK = System of Profound Knowledge) をご紹介しました。今回、これに加筆し、4回シリーズでお届けします。マネジャーは、すべての分野のエキスパートである必要はありませんが、すべての分野の専門家と協力して働くことができなければなりません。私たちは、クオリティの専門家、マネジャー及び組織が持続可能な成功を達成するために「仕事を成し遂げる」方法について考えるお手伝いをしたいと考えています。デミングの深遠なる知識のシステムは下記の図であらわすことができるでしょう。
上記のQuality World の我々の記事「The relevance of Deming for today’s management」では、SoPK こそが品質とマネジメントにおける重要で顕著な改善の実施策であると主張しました。では、「知識の理論」の部分から始めましょう。
「知識の理論」というとアカデミックなものを思い浮かべるかもしれませんが、実際はとても実用的なものです。それぞれの組織は、長期的な将来の目標を設定し、戦略を定め、計画をつくり、決断をし、理想的にはこれらすべてに対して対応をします。これを効果的なものとするには、これらの活動が組織内の各状況の事実もしくは証拠に基づいていなければならず、SoPKは完全な視点を提供するのに役立ちます。
「自分たちは、いつもこのやり方でやっている」、「これをやるべきという気がする」、あるいは「我々は○○をやろうとしてる (個人的な利益や自己満足が得られるから)」という言葉をどのくらいの頻度で耳にしますか? 生き残ろうとするなら、まして持続的な成功を達成しようとするなら、これではいかなる組織も運営することはできません。デミングはかつて、「これらのことをしなければならないというわけではありません。生き残ることを選ぶかは自由です」と言いました。では、組織として成功するためにより効果的な方法を見ていきましょう。これぞまさしくマネジメント・サイエンスと呼ばれるものです。
反応は想像できます。「自分は行動する実践的な人間だ! 理論が何だというのだ?」 という人もいるでしょう。組織の知識の理論は、継続的な調査の結果であり、現状の事実あるいは全体の状況について知っていると思うこと、あるいは知っていると主張することを伝えるものであるべきです。現実問題として、理論は非常に実際的です。というのは、事実あるいは証拠は組織運営の実際の経験からくるものだからです。
組織の知識の理論に寄与する可能性のある知識の分野の例としては、製品及びサービスのパフォーマンス、経済的状況、市場及び市場におけるシェア、現状のパフォーマンスと品質のデータ、すべての階層における知識と技能の能力、廃棄物の量、バリューストリームと支援のプロセスなどがあります。
ひとたび、こういった種類の知識を見るようになると、これらの知識は常に変化し得る、特に、今日の組織が事業を運営する外部の環境は常に変化しているということが明らかになります。これに気付くことにより、常に適応し、できれば改善するための活動が促進されます。もっとも効果的なのは、「改善の科学 improvement science」であり、組織のそれぞれの側面に適用することができます。
先ほど言及した記事において、デミングの車輪と呼んだものは、Plan-Do-Study-Act (PDSA) サイクルとしても知られています。この非常に単純なプロセスが改善の科学を促進する原動力となります。実際、PDSA サイクルは、科学的方法 Scientific Methods とほぼ同じです。デミング博士は、広く使われている「Check」という言葉よりも、「Study」という言葉を好んでいます。ここで強調されているのは科学であるということであって、チェックボックスにチェックを入れることではないということです。トヨタは、サイクル全体の各部分の中にさらにPDSA サイクルを入れることにより、このモデルをさらに進化させました。
デミングの車輪を利用するときの実用的なヒントとしては、これをStudy-Act-Plan-Do、つまりSAPDoと考えることです。ここに重要な点があります。なぜなら、このサイクルはショートカットされてしまうことがあるからです。カウンセリングの言葉を借りると、私たちは「常に、そしてすでに」人生の只中にあるということになりますが、組織の改善にとってはまさにこれが真実です。したがって、変更や改善を決める前に、証拠を集めるための「Study」から始めるというのは理に適っています。では、サイクルに踏み出しましょう。
Study | まず、「何が起きているか?」と問いかけ、事実を把握する。 |
Act | 発見した事実に基づき、起こったことを変えるために可能な解釈を探り決定する。 |
Plan | 変化が改善となるか、何がリスクなのかをどのように知るかを含む取組みを計画する。 |
Do | 試しにやってみる、つまり小規模にやってみる。 |
Study | 最初のサイクルを、「何が起こったか?」と問いかけることにより終わりにする。 |
Act | しかる後、システムに対する変更を採用、適用する、もしくは変更をやめる |
後ろに下がって、組織のあらゆる側面の長期的な改善を俯瞰ししてみれば、連続したSAPDoのループは上向きの螺旋になっていると考えるかもしれません。たとえ特定の変更がうまくいかなくても (すべての変更がいつもうまくいくわけではないでしょう!)、この螺旋は状況に関するご自分の知識が増えたことを表すものだと考えましょう。
ここで、売り上げが落ちてきているワンダーウィジェットという会社の場合について見ていきます。同社はeコマース用のウェブサイトのユーザビリティについて、マイナスのフィードバックがあることに気付きました。さらに調査してみると、運営部門が不完全な、あるいは間違った注文情報を受け付けており、これにより配送のパフォーマンスが影響を受けていることが判明しました。市場調査によると、同社の競合は予想していたよりも、高いシェアを市場において占めています。つまり、自分たちが状況について知っていると思っていたことは、すでに過去のものであったり、不完全なものであったりしたということです。
どのような対応を取るべきでしょうか? おそらく最初にウェブサイトの稼働時間のベースラインとなるデータを集め、それからホスティング会社と話し合います。自分たち専用のサーバをホスティングしている場合は、アクセス帯域幅を向上できるかもしれません。あるいは、問題はトランザクションをフリーズさせるウェブデザインにあるのかもしれません。重要なのは、実際に何が起こっているのか、事実を探り、情報に基づく対策を取ることです。
結論として、組織の知識の理論 (経験からの証拠に基づいて現状の事実について知っていると思うこと) を認識することが持続的な成功にとっては重要な基であるということです。
次号の記事では、「システム思考 systems thinking」と呼ばれることもある、「システムに対する深い認識 appreciation for a system」について考察していきます。関係性や相互作用を理解するために、組織の全体像を見ることは、持続的成功にどのように寄与するのでしょうか。
著者について: アラン・クラーク (Alan Clarke, CQP FCQI)は業務改善に関する経営幹部育成コーチ、アドバイザー及びトレーナーです。トニー・コルィツキー (Tony Korcki、PCQI) はBT グローバルサービス社においてサービス導入及びプロセスアーキテクチャを担当しています。
英語原文を読むには
CQI UK のウェブサイト、quality.org に掲載されたオリジナルの記事は こちらから閲覧できます。