食品廃棄物の削減と食品の品質基準の維持の両立を目指して
イギリスのスーパーマーケットチェーンであるモリソンズ (Morrisons) は、牛乳の廃棄を大幅に減らすことを目的として、自社ブランドの牛乳の90%に消費期限 (use-by date) を表示しないことにしました。このような動きは、品質基準にどのような影響を与えるのでしょうか?
英国の食品廃棄物の現状
イギリスのスーパーマーケットチェーンであるモリソンズ (Morrisons) は、牛乳の廃棄を大幅に減らすことを目的として、自社ブランドの牛乳の90%に消費期限 (use-by date) を表示しないことにしました。このような動きは、品質基準にどのような影響を与えるのでしょうか?
英国における食品廃棄の実態は、非常に厳しいものです。英国の非営利団体 WRAP (Waste & Resources Action Programme) によると、国内では毎年1,000万トンの食品廃棄物が発生し、そのうち約70%が家庭から排出されているそうです。
このような廃棄物は家計に大きな負担をかけるだけでなく、毎年大量の食品や飲料が廃棄され、環境にも大きな負担をかけているのです。世界の食品廃棄物を国にたとえると、米国、中国に次いで3番目に大きな二酸化炭素排出量を持つことになります。主な例は牛乳の生産ですが、資源を大量に消費するため、二酸化炭素排出量も多くなります。牛乳1リットルで、最大4.5kgのCO2が発生する可能性があります。
イギリスの大手スーパーマーケットチェーンであるモリソンズは、1月に自社ブランドの牛乳の90%について今月末から消費期限を撤廃すると発表し、大きな話題となりました。牛乳は、ジャガイモ、パンに次いで英国で3番目に廃棄される食品及び飲料製品であり、毎年約4億9千万パイント (約2億7832万リットル) が廃棄されています。WRAPは、このうちラベルに記載された消費期限を守るために、年間8500万パイント (4828万リットル)、金額にして約2億7000万ポンド (約412億8300万円) 相当の牛乳が無駄になっていると推定しています。
品質基準の維持
食品廃棄物の削減は、環境的にも経済的にも大きなメリットをもたらしますが、消費者のために設けられたガイドラインが変更されたり、完全に削除されたりした場合、ISO22000食品安全マネジメントで規定された厳格な食品安全の品質基準 をどのように維持することができるのでしょうか。
その鍵を握っているのが、飲食料品に記載されている2つの日付です。賞味期限 (best-before date) は品質に関係し、消費期限 (use-by date) は安全性に焦点を当て、英国食品基準庁 (FSA = Food Standards Agency) が明確に定義しています。
他の生鮮食品とは異なり、賞味期限を過ぎた牛乳を飲むことは安全上の問題ではありませんが、生産者や小売業者にとって製品の品質基準を維持することが最も重要であることに変わりはありません。
2年計画
モリソンズの発表後、BBCラジオ4の番組「Today」に出演したモリソンズのテクニカルディレクター、ルース・マクドナルド (Ruth MacDonald) は、次のように語っています。「私たちは、牛乳の主要な供給者であるArlaと協力して、本当に綿密な作業を2年間行い、すべての関係当局と連携し、これ (自社ブランドの牛乳の消費期限の削除) が食品安全の観点から安全であると納得することができました」 と述べています。
WRAPの家庭用食品廃棄物に関する特別アドバイザーであり、WRAPの市民向けブランド「Love Food Hate Waste」を運営するヘレン・ホワイト (Helen White) は、食品廃棄物削減のための表示変更の動きを長年リードしてきました。
「消費期限は食品安全に関わるものですから、消費期限を過ぎたものは、見た目や香りに問題がなくても、絶対に使ってはいけないと、私たちやFSA は言っています」と説明します。「賞味期限は品質期限です。そして、モリソンズは牛乳を安全マークから品質マークへ安全に移行できるという科学的な研究を行っており、モリソンズ自身が納得しています。
「品質マーク からは、安全性の問題は取り除かれているということです。乾物や缶詰など、賞味期限が長いものでは賞味期限をよく見かけますよね。つまり、賞味期限を過ぎたものは、ニンジンを見てまだ使えるかどうかを判断するのと同じように、自分の判断で食べられるかどうかを決めればいいということです。
「技術が発展し、製造方法が変われば、生産者もこのように変化することができるのです。消費期限というハードなものから賞味期限に移行すると、製品の安全性が保たれ、品質基準が保持されて、消費者に今少し時間が与えられるので、食品の無駄が少なくなります。」
最高の品質水準を維持しながら、食品廃棄物を減らすことは、英国で真剣に取り組まれている問題であると、ホワイト氏は説明します。
「私たちは英国で、Courtauld Commitment (コートールド・コミットメント) と呼ぶ農場からフォークまでのアプローチで、食品廃棄物の削減に取り組んでいます。製造業、小売業、接客業、外食産業、地方自治体、慈善団体、食品団体など、さまざまな分野の人々が参加し、農場から出荷してから後のフードチェーンのあらゆるステップを対象にしています。
「元々、Courtauldが取り組んでいたのは、廃棄物を減らすために包装を変更することでした。しかし、食品が主な取り組みとなり、2015年には Courtauld 2025 を立ち上げ、食品にしっかりと重点を置くようになりました。現在は、国連の持続可能な開発目標に並ぶ、地球環境目標達成のための温室効果ガス排出量削減につながる、Courtauld 2030に向けて取り組んでいます。」