改正GMP省令と医薬品品質システム (PQS): 医薬品GMP審査員トレーニングの必要性
あらゆる業界でグローバル化が進んでいます。中でも人々の健康や生死に直結する医薬品製造においては国を跨いだ標準化が喫緊の課題と言えます。日本の医薬品製造にもこの波が押し寄せてきています。CQI and IRCAの認定する医薬品GMP主任審査員研修コースは国際的な基準に基づき設計開発されており、この波を乗り越えるための人材を養成する組織を助けるものです。
GMP省令はなぜ改正されたのか?
2021年8月、改正されたGMP省令が施行されました。
医薬品に係る大枠の法令はいわゆる薬機法 (医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律) です。この薬機法の中の医薬品、医薬部外品の製造・販売を規制する法令として、厚生労働省より「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」が出ています。
これが医薬品業界においてGMP (Good Manufacturing Practice) 省令と呼ばれる法令です。
そもそも、医薬品製造は日本のPMDA (独立行政法人医薬品医療機器総合機構) をはじめ、各国それぞれの規制当局、査察当局によって厳格に規制され、査察が行われています。
しかし、医薬品製造においては、国を超えた製薬企業の合併、発展途上国を含めグローバルに広がるサプライチェーン、国境を容易に越える伝染性疾患の脅威など、各国それぞれの対応では対処できなくなってきています。
これに対し、医薬品製造に関する基準の標準化、査察の標準化を進めるための国際的な取り組みが欧州から始まり、医薬品査察協定・医薬品査察共同スキーム (PIC/S = Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme) が1995年に発足しました。
2014年には日本もこの PIC/Sに加盟し、PIC/Sガイドラインに沿った査察を受け入れることとなりました。すなわち、日本国内の基準であるGMP省令とPIC/Sで定めるGMPガイドとを整合させることが必要となったのです。
そして7年が経過した2021年8月、PIC/S GMPの要求事項を反映する形で改正されたGMP省令が施行される運びとなりました。
PIC/S GMPは欧州のGMP (EU-GMP) をベースに定められています。このPIC/S GMPにあって、日本のGMP省令にはなかったものは、「6つのギャップ」と呼ばれ、2021年の改正ではこのギャップの解消が図られました。
- 品質リスクマネジメント
- 製品品質の定期照査
- 参考品 (製品及び原材料) 等の保管
- 安定性モニタリング
- 原料等の供給者管理
- バリデーション基準
もちろんこれまでも、PIC/S ガイドラインに基づく海外からの査察に対応するため、各製造者においては都道府県、またはPMDAの指導のもと、PIC/S GMP への適合が図られてきました。この改正の施行は、いよいよ日本の法令としてこの6つのギャップへの対応が法的要求事項として要求されるようになったということを意味します。
加盟からGMP省令改正まで7年掛かりましたが、この歳月はギャップを埋めるためには必要な時間だったとも言えるかもしれません。
医薬品品質システム (PQS) -改正GMP省令の根幹にあるもの
PIC/Sというグローバルスタンダードの根幹をなすもの、すなわち6つのギャップの根幹にあるのは品質システムという考え方です。この品質システム (PQS 医薬品品質システム) は、ISO 9001などに代表される品質マネジメントシステムとほぼ同義の言葉と考えてよいでしょう。
ISO 9001 は法的な要求事項ではありません。しかし、医薬品製造においては、PIC/S GMPで品質システムの実装が要求されており、必然的に改正GMP省令においても品質マニュアルの作成及び維持をはじめとする品質システムの実装及び運用が必須、法的な要求事項となりました。
これまで医薬品製造においては、従前のGMP省令が必須の要求事項となっていたため、これに加えてISO 9001を代表とする、品質マネジメントシステムを導入しようとする組織は多くはなく、PDCAをはじめとするマネジメントシステムの考え方にはなじみがありません。
リスクマネジメントや内部監査、是正処置などの予防/再発防止のための仕組み、あるいは経営層の関与などの概念はもともと日本の事業慣行にはないものであり、ISO 9001のシステムを運用する組織においてもしばしば形骸化が指摘されています。
したがって、PMDAの査察のみならず、海外からの査察にも対応できるよう、品質システムをいかに有効なシステムとして実装、運用、監視していくかは、日本の組織にとっては特に大きな課題であると言えるでしょう。
また、供給者の管理では、原薬などだけでなく、添加剤、包装材、あるいは輸送や保管、サービスの供給者についても管理が求められています。供給者への定期的なオンサイト監査のためには、国際基準に精通した監査要員の育成も必要となります。
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人材の育成-GMP省令への適合を支える柱
したがって、改正GMP省令に対応するためには、医薬品品質システム (PQS) を有効に実装、維持、運用、そしてその有効性を査察官/監査員に対して実証できる人材の育成が急務です。
CQI IRCA では医薬品の品質に対する審査員/監査員のための「CQI and IRCA認定 医薬品GMP 主任審査員研修コース (5日間コース)」の基準を専門家の協力の下、作成、更新し続けており、これに適合するトレーニングパートナー機関及び研修コースを認定しています。
CQI and IRCA認定 医薬品GMP主任審査員研修コース
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>コースの詳細及び参加申込書
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ただ、残念ながら、日本国内にはこのコースの認定をもっている認定トレーニングパートナー機関はありません。したがって、このコースに参加しようとする場合は、例えば上記にご紹介した海外の認定トレーニングパートナー機関による研修コースを受講する必要があります。
しかし、これは逆に言うと、日本語に翻訳された解釈ではなく、GMP、ICH Q8、Q9、Q10、ISO 9000などの規格が書かれた言語による、要求事項の意図を踏まえたトレーニング、海外の査察官や監査員の求めるものを理解するための助けを得る絶好のチャンスでもあります。