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隠された次元を探る - パート3 - 品質文化の触媒

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隠された次元を探る - パート3 - 品質文化の触媒

quality.org の英語原文記事はこちら

パート1パート2から引き続き、IRCA登録 Associate Auditor で国際プロジェクト品質リーダーのラスール・アイヴァジ (Rasoul Aivazi) と引退した監査員のリチャード・ブレット (Richard Brett) が、品質には日本の哲学がいかに内在しているかを探ります。

アイヴァジ氏はCQI Audit SIGのメンバ-であり、ブレット氏は以前GSKで Japan Quality SMEと監査マネージャーを務め、現在はAudit SIGの副委員長として活躍しています。

日本文化における3つの信条

日本の製品やサービスの品質は日本の文化に根ざしており、これは多くの場合、直接意識することなく無意識のうちに浸み込んでいます。「Monozukuri (the craftmanship spirit) ものづくり (職人魂)」、「Kaizen (ongoing enhancement and continual improvement) 改善 (継続的な強化と継続的な改善)」、「Kodawari (relentless focus on detail) こだわり (細部への絶え間ないこだわり)」などの中心的な概念は、この関係の証左です。

これら3つの信条は、本シリーズのパート1パート2の出発点でしたが、このパート3とパート4 (パート4は6月に掲載予定) では、日本において文化が品質をどのように形作るかについて、10の側面から掘り下げて検証します。

日本の品質を形作る10の概念

日本において品質に対する無意識の文化的影響は、製品、サービス、プロフェッショナルな環境を形成する強力な力となっています。以下の10の概念は、日本人の精神に強く根付いており、日本の品質に対する評判に大きく貢献しています。

(1) Monozukuri ものづくり、(2) Kizen カイゼン、(3) Kodawari こだわり、(4) Wa 和と Chōwa 調和、(5) Keiro 敬老と Giri 義理、(6) Gaman 我慢と Nintai忍耐、(7) Dai-ichi inshou 第一印象、(8) Dandori-hachi-bu 段取り八分、(9) Omotenashi おもてなし、(10) Hōsō 包装。

こうした文化的影響を受け入れ、効果的に活用すれば、プロとして成功するための触媒となる可能性があります。

「この調査によって、日本における品質に対する無意識の文化的影響が、単に基準を満たすことやベンチマークを超えることではなく、生活のあらゆる側面に深く浸透した精神 (エトス) にあるということが明らかになりました。」

それらを理解すれば、日本で専門家として成功するためのフレームワークを得ることができます。この品質文化を受け入れることで、個人も企業も日本の職場で成功することができます。

ここでは、最初の5つのコンセプトについて考えてみましょう。

1.職人魂を受け入れる

Monozukuri ものづくり」とは、ものづくりの精神を象徴する言葉であり、日本における職人技の文化的な誇りを表しています。

これは、ものづくりは単に機能的な製品を生み出すだけでなく、そのプロセスに大きな目的意識と誇りを持たせるべきであるという考えから来るものです。幼い頃から日本人の考え方に根付いているこの潜在的な文化的側面は、日本製品の品質に大きな影響を与えています。

「ものづくり」の概念を理解し、実践することで、専門家は自分の技術を大切にし、自分の仕事を自分のアイデンティティの延長として捉え、卓越性を追求するようになります。こうした取り組みは、キャリアアップのための強固な基盤を作り、仕事の質の向上に貢献するとともに、誇りと充実感を育みます。

2.継続的改善の実施

「Kaizen (改善)」は日本の職場の中心的な原則であり、継続的かつ漸進的な改善を重視し、プロセスがどんなに優れていても、常に改善できるという考えを促します。この文化的規範に後押しされるように、日本企業は卓越性を追求し、製品、サービス、社内プロセスを改善する方法を常に模索しています。

日々の業務に「カイゼン」を取り入れることで、個人は継続的な学習と改善のために変化を受け入れるようになります。これはレジリエンス (回復力)、柔軟性、革新性を育みますが、それは変化し続けるプロフェッショナルの状況を乗り切るためには不可欠なものです。

企業にとっては、「カイゼン」を実践することで、絶え間ない進化を促す環境を生み出し、競争力が高まります。

3.細部へのこだわりを取り込む

Kodawari こだわり」という概念は、日本人の仕事に対する勤勉さを物語っています。これは複雑な言葉で、しばしば細部への「極度の執着 extreme obsession」 と訳されます。これは、タスクを完璧に遂行するための良心的な努力を示しており、日本のアウトプットの質に寄与する主要な文化的特質のひとつです。

「こだわり」を取り入れることで、専門家は仕事の質を高め、差別化を図り、キャリアの軌道を押し上げることができます。

企業にとって、「こだわり」を組織文化に根付かせることは、卓越した水準の製品とサービスの提供を促進し、顧客満足度とブランド評価の向上につながります。

4.協力と調和を促進する

日本文化のもうひとつの重要な側面は、Wa 和」という概念です。「和」とは、「平和 piece」、「調和 harmony」、「バランス balance」を意味します。ポジティブな集団力学 (グループダイナミクス) を維持し、対立を避けることが重視されています。

チームワークを促進することで、企業は士気を高め、前向きな職場環境を醸成し、生産性を向上させ、質の高いアウトプットに貢献することができます。

「和」は協働の場における調和やバランスという概念を表現するために使うことができますが、Chōwa調和」はより具体的な言葉で、全員の意見やアイデアが尊重される調和のとれた (harmonious) 環境を作ることの重要性を表します。

「調和」とは、異なる要素や側面の間に平和的共存を見出すこと、あるいは異なる要素や側面の間に合意、均衡、協調の状態を見出すことと翻訳することができます。

つまり、「和」も「調和」も協調や調和を表す言葉ですが、「調和」はよりニュアンスの強い言葉で、特に調和がとれ、バランスが取れた環境を指します。

5.上下関係と伝統を尊重する

日本の労働文化は、上下関係や伝統を重んじることに根ざしています。このような権威の尊重は、組織内の円滑な運営を保証し、サービス提供の質を高めます。

日本において上下関係や伝統を重んじるという概念は、しばしばKeigo 敬語」Giri 義理」という言葉に集約されます。

「敬語」は日本語の話し言葉の一種で、礼儀正しさ、敬意、謙虚さを表します。敬語は日本社会の階層構造の中で重要な役割を果たしており、特に目上の人や社会的地位の高い人と話すときに使われます。

「義理」とは、大まかに言えば「義務 duty」「責任 responsibility」「恩返し returning the favour」「義務 obligation」「社会的義務 social obligation」という意味です。義理は社会や家族の役割や伝統に対する強い義務感と敬意を表し、社会の調和と秩序を守る行動につながります。

これらの用語は、上下関係や伝統を尊重するという考え方を表していますが、日本においてはより複雑で包括的な概念であることに注意する必要があります。社会構造、歴史的背景、文化的規範により、上下関係や伝統を尊重することが日本文化の多面的な側面となっています。

シリーズを展望する

このシリーズのパート4では、「品質文化の触媒」についての解説を続け、Gaman我慢」Dai-ichi insho第一印象」Dandori-hachi-bu段取り八分」Omotenashiおもてなし」Hōsō包装」を取り上げ、日本で仕事をする際の隠された国民的側面を探っていきます。

謝辞: 本シリーズのこのパートは、日本に在住しているか、日本について深く研究しているか、または日本国籍を持っている、リチャード・ブレット (Richard Brett) 氏、岩本博之氏、菅野亮氏、渡邉慎也氏、古賀稔広氏といった著名な国際的専門家のチームによるレビューとコメントを受けています。

著者は、ご提供いただいた多大な貢献と専門知識に感謝し、心から敬意を表します。

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