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CPDイベント報告『内部監査能力の育成』 第5回 – 重箱の隅の不適合に大きな問題点が潜んでいる

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CPDイベント報告『内部監査能力の育成』 第5回 – 重箱の隅の不適合に大きな問題点が潜んでいる

2019年11月22日 (金)、CPD 推進イベント『内部監査能力の育成』の4回目のセッションが行われました。今回のCPD 推進イベントではIRCAのQMSプリンシパル審査員であり、IRCA認定研修機関 株式会社エル・エム・ジェイ・ジャパンの講師である青木明彦氏がコーディネーター/講師となり、月に1回ずつ、7月から12月まで6回連続で内部監査能力とは何か、どのように内部監査を実践するかを追求していきます。

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今回のセッションにおける青木講師の重要ステートメント:
● 重箱の隅の不適合に大きな問題点が潜んでいる
● 監査の目的は人的ミスを見つけることではなく、なぜ人的ミスが起きたのかを見つけること
● 性悪説とは、人を疑えということではなく、仕事を疑えということ
● 監査員の責任と権限は文書化し、周知する

重箱の隅の不適合に大きな問題点が潜んでいる
いきなり大きな問題点は見えない、重箱の隅の不適合には何か理由がある。それを1つずつ確認していくことで大きな問題点が見えてくる。

監査の目的は人的ミスを見つけることではなく、なぜ人的ミスが起きたのかを見つけること
監査は何のためにやるのか。問題点を見つけて、それを改善するため。

性悪説とは、人を疑えということではなく、仕事を疑えということ
例えば、この記録を承認した根拠は何、判断基準は何ということを問う。合格点が80点のところ、82点だったとしても、それが妥当かどうかは判断できない。82点という計算の根拠、だれが評価したのかを確認し、辻褄が合えば、初めて82点が妥当であると判断できる。

監査員の責任と権限は文書化し、周知する
現場、プロセスは生き物で日々変化している。監査したときによくても、それが永遠に続くわけではない。現場、プロセスを保証するのはプロセスの部課長の仕事であって、監査員の仕事ではない。それをきちんと周知しておかないと、事故が起きたとき往々にして監査員のせいにされる。

事前準備からインタビューへ

前回、第4回では品質データを用いて会社のパフォーマンスを向上させる、また、事業活動をよくしていくためにはどこに着眼点を置いて、何をインタビューしていけばよい改善点が見つかるかを各チームで討議しました。

第5回では「管理者に直接質問をして、(事前に) 特定した仮説を検証し、改善を合意できる」ことを目的として、青木講師の演じる被監査部門の課長を相手にインタビューを実施しました。

経営トップに対して付加価値のある監査を報告するためには:
● 与えられたチェックリストだけをもって事前準備をせずに現場に行ってはだめ
● 押印がない、日付が抜けているという小さな指摘を見つけてそれをそのまま報告してもトップは喜ばない
● トップが関心を持たずにいられないような監査テーマを決め、それに基づいた報告をする

ことが重要であり、前回はそのための作戦と戦術を決定したということです。

作戦: 監査テーマを決めることー パフォーマンスの向上やQMSの効果的な運用を妨げている会社の弱点、例えば是正処置、教育訓練、工程管理など結論が書きやすい小さいテーマを決める。
戦術: 弱点 (監査テーマ) を改善していくためにはプロセスの重要性に基づいて仮説 (計画) を立てる。

監査の心得

  • 小さめのテーマにすれば、何が問題で、何ができていないということが確認できて仮説が結論になる
  • チェックリストは無理につくらなくても、例えばマインドマップをつくったり、ポストイットなどを使うなど、だれに何を聞くということがきちんと頭の中にあればいい。
  • インタビューに入るときは、まずゆとりをもって、リラックスした雰囲気をつくる。
  • 現場を監査するときは作業者の邪魔をしたり、作業者を威圧したりしないよう気を配る。
  • 不適合を発見したら、何か理由があるはず。それを監査中に聞き出し自覚してもらう。被監査部門にただ放り投げてもだめ。
監査が成功するための4つの要素 - 監査員の力量だけの問題ではない
● トップが関与している - トップが内部監査なんか適当でよいという姿勢であれば、部課長も協力しない
● 被監査部門の部課長が協力をする – プロセスの責任者である部課長が協力しなければ、どんな優秀な監査員が行っても監査は成り立たない
● 監査員の力量を高める
● 適合性の監査だけでなく、データ分析して有効性の監査という進め方に変える

以上を踏まえ、第5回では前回立てた監査テーマと仮説に基づき実際にインタビューを行いました。

インタビュー実施後に示されたインタビューのコツ

具体的な質問をする
例えば年度方針について話を聞く場合、「年度方針の中でいちばん重要なのは何ですか」といった抽象的な質問では焦点が定まらない。年度方針から展開する重点施策を決めるのは課長の仕事なので、「なぜこれが重点施策なのですか」、「達成目標はいくつですか」、「それを達成するための計画はどうなっていますか」、「今はどこまで実績が進んでいますか」、あるいは実績が進んでいなかったら、「どういう問題点があると思いますか」、「課長さんの耳にはどういう情報が入っていますか」、「それに対してどういう指示を出されましたか」と具体的に攻めていく。

問答を想定して監査ストーリーを組み立てておく
「品証の役割は何ですか」といった概念論から監査に入ると、返ってくる答えの幅が広すぎるため、問答の想定ができない。具体的な資料について質問し、その裏付けを聞くというアプローチであれば、資料があった場合はこう聞く、なかった場合はこう聞く、どちらの場合もどうしてそう判断したのかという根拠について聞く、こう答えが返ってきたら、こういう質問をする、こういう答えが返ってきたら、こういう質問をするとあらかじめ監査ストーリーを組み立てることができ、監査の場で立ち往生しなくてすむ。

哲学ではなく事実関係から攻める
「年度方針は各階層で整合が取れていなければならないとマネジメント規定で定めてありますね。もうちょっと明確にされたほうがいいですよ」という哲学からではなく、「社長の方針はこれですね、部長の方針はこれですね、課長の方針はこれですね、整合が取れていますか」、取れていなければ、「マネジメント規定に違反していますね」といった具合に事実関係から攻めていく。

システムを監査する場合は一気通貫で見る
ある製品について、あなたは製造、あなたは設計、あなたは調達と分担してやらず、同じ監査員が設計、製造、調達というように一気通貫で監査しないと、整合した結論を導き出すことはできない。

性善説ではなく、性悪説で監査をする
性悪説というのは人を疑えということではない。データが示されたら、そのデータが正しいものと頭から信用せず、データの根拠や妥当性を確認する。

小さな問題点はその場で1つひとつ確認する
監査の最後にまとめて問題点を確認する方法もあるが、監査員が疑問に思い、できれば改善したほうがいいですねという問題点は、まずその場で1つずつ処理することで後の報告や確認が楽になる。

小さな問題点は氷山の一角かもしれない
1つ小さな問題点が見つかったら、同じような指摘事項をできるだけたくさん集める。それをチャンクアップして改善課題を導き出す。

指摘に対して合意がもらえなかったら持ち帰る
ある程度詰めて、合意がもらえない場合は、それ以上突っ込まず懸案事項として持ち帰り、その他の事項として報告書に記載する。

現場はモノをつくっている、生産は毎日動いているということを肝に銘じる
報告書を発行してから1か月というのが一般的な是正処置の回答期日であるが、処置ができていない間もずっと生産は続いている。したがって、是正についても問題の与える影響から優先順位を決めて、早く対応すべきもの、長期で対応するものあるいは長期での対応が必要なものと勘案して期限を決める。

時間は限られていましたが、インタビュー後の質疑応答も含め、示唆に富んだ演習が行われました。

次回はいよいよ最終回、監査報告書の書き方の演習をし、最後は全体を総括しての振り返りと質疑応答が行われます。

<付録>
前回 第4回の振り返りシートの質問から

● どのようなデータを使って分析するのか?
いちばん優先されるのはパフォーマンスデータ
・ QMSの戦略のパフォーマンス (QMSの戦略 = 経営トップはQMSにより何を達成したいのか)
・ プロセスのパフォーマンス
・ 製品・サービスのパフォーマンス
・ 外部提供者のパフォーマンス
上記の4つのパフォーマンスのうち、経営トップがいちばん関心をもつパフォーマンスが優先される。何をテーマにするかによってどの品質データを選択し、分析するかは違ってくる。

● ボトルネックを特定するときの着眼点は?
<予防的な観点> 
予防的な観点については、あれが心配、これが心配とすべてを予防しようとしてもきりがない。1回起これば会社の存続さえも危うくする社会的責任 (例えば、法律違反、有害物質、被害発火発煙など) に絞ってはどうか。
<是正の観点 >
事故が起こった、クレームが出ている、不良率が高いというところに対応するのが是正の観点。すべてをゼロにすることはできないので、例えば顧客クレームが出ているというときにはいちばんメインのお客さんの問題からつぶしていくなど、取り組むべき優先順位を特定する。また、経営トップが何を気にするかによっても優先順位は変わってくる。

● 内部監査員をOJTで指導する方法
内部監査員を育てるために、いちばん有効なのはOJT 指導、体で覚えてやってみるのがいちばんいい。
OJT指導の際には、俺のやるのを見ていろとただ連れていくだけではだめ:

  • 1日の審査の中で例えば30分を割り当て、1項目、教育訓練についてなど、テーマを与えて実際にやらせてみる ⇒ どういうしゃべり方をするのか、どういう目つきでしゃべっているのか、どういう態度でしゃべっているのか、全部わかる。
  • まずいなというところがあったら、ちょっと監査を止めて、その場で注意する ⇒ あとから反省会で言っても、効果はない。ただし、注意の仕方によってはやる気を削いでしまうので要注意。
  • いいところ、悪いところをきちんと書面にしてフィードバックしてあげる ⇒ 教える人も、評価項目を事前にきちんと決めて、しっかり見ていないと書けないし、相手に伝わらない。OJTの評価表は指導する人の力量もあらわにする。そして、評価表の内容について、文書で回答をもらう。単なる「がんばります!」ではなく、どういう対策をとるのか、いつまでにやるのかということを具体的に出させる。そうすると有言実行しなければと意識も変わる。
CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018