ISO MS規格に気候変動の要求事項導入が持つ意味
アレグザンダー・ウッズ (Alexander Woods)
Policy Manager, CQI
Friday, 23 November, 2024
ISO がAタイプのマネジメントシステム規格に気候変動の要求事項を導入することの意味について、CQI のPolicy Manager である Alexander Woods がLinkedIn に投稿した記事の日本語版をお届けします。
気候変動に関して2021年に発表されたISOのロンドン宣言を支援するため、ISOは決議を行いました。この決議により、ほとんどのタイプA (認証対象となる要求事項) マネジメントシステム規格に2つの新しい記述が追加され、それらは開発/ 改訂中のすべての新しい規格に含まれることになります。
この記述は、気候変動がマネジメントシステムの意図した結果を達成する能力に及ぼす影響を考慮する必要性に言及しています。この変更は、マネジメントシステム規格における大きな転換を意味し、組織の枠組みの中で気候変動に取り組むことの重要性が高まっていることを浮き彫りにしています。この変更 (2 つの新しい記述) は、調和構造 (Harmonised Structure) の新しいテキスト (ISO/IEC 専門業務用指針第 1 部 統合版 ISO 補足指針 附属書 SL Appendix 2) に組み込まれます。
変更は以下の通りです。
追加される記述: 組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解: 組織は、次の事項を決定しなければならない。
ー XXXマネジメントシステムに関連する利害関係者
ー それらの利害関係者の、関連する要求事項
ー それらの要求事項のどれがXXXマネジメントシステムを通じて対処されるのか
追加される記述: 注: 関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項を持つことができる。
この変更は、まず、すでに発行されている規格の「修正 Amendments」として導入されます。この規格の修正については2024年2月23日に公表されます。
これらの追加の記述は、気候変動問題への対応におけるマネジメントシステムの重要な役割に光を当てるものであり、組織が気候変動への配慮を業務や意思決定プロセスに積極的に組み込む必要性を強調しています。
気候変動は、データや科学的調査が示すその影響力、そしてこの分野の専門家のコンセンサスによれば、人類が21世紀に直面する最も重大な課題であることは間違いありません。その影響は広範囲に及び、地球規模で生態系、経済、人間の幸福 (well-being) に影響を及ぼしています。気候変動に対処するには、世界中の政府、企業、コミュニティ、そして個人が緊急かつ協調した行動をとる必要があります。断固とした行動をとらなければ、地球に取り返しのつかないダメージを与え、将来の世代の見通しを損なうことになりかねません。
気候変動の影響は、世界中でさまざまな形で観測されています。
- 気温の上昇: 世界の平均気温は上昇しており、気象観測所や人工衛星、その他からの記録は、過去100年にわたって一貫して温暖化傾向を示している。
- 異常気象: 気候変動は、熱波、ハリケーン、洪水、干ばつなど、より頻繁で深刻な気象現象を引き起こしている。これは、科学的研究や気候記録に記録された頻度や強度の増加によって観察されている。
- 氷冠と氷河の融解: 衛星画像と地上での直接測定により、世界中の極地や山岳地帯の氷冠や氷河が急速に減少していることが確認されている。
- 海面上昇: 潮位計と衛星による観測では、過去100年にわたって海面が着実に上昇していることを示しており、その速度はここ数十年で加速し、海岸の浸食、低地の浸水、暴風雨時の洪水の増加につながっていることが示されている。
- 降水パターンの変化: 気候モデルと観測データから、降水パターンが変化している証拠が得られている。ある地域ではより激しい降雨が発生し、またある地域では干ばつが長期化し、水の利用可能性と農業に影響を及ぼしている。
- 生物多様性の喪失: 種の分布、個体数、生息地の喪失の変化を追跡する研究は、生態系の変化や種の生存に対する脅威など、気候変動が生態系や生物多様性に与える影響の証拠を提供している。
- 海洋の酸性化: 海水の化学的性質を直接測定した結果、二酸化炭素吸収量の増加による酸性度の上昇が明らかになり、海洋生物への悪影響が科学的調査によって記録されている。
- 農業への影響: 作物の収穫量、生育期、害虫の分布などの農業データは、気候条件の変化が世界の食糧生産システムに及ぼす影響を示しており、作物の不作や食糧不安につながることを示している。
これらの観測は単なる意見ではなく、気候変動に関する政府間パネル (IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change) のような国際機関の報告書や査読済みの科学文献など、広範な科学的調査によって裏付けられています。これらは、気候変動の影響に対処するための緩和と適応への取り組みが緊急に必要であることを強く示唆しています。そしてこの問題に取り組むことは、単なる環境問題ではなく、道徳的義務であり、あらゆるセクター、組織、個人に関連してきます。気候変動に対処するための行動が可能であるなら、行動しなければなりません。
気候変動への配慮がマネジメントシステム規格に盛り込まれることは、クオリティプロフェッショナルやマネジメントシステム監査員にとって、ある種の転換を意味します。
組織は、気候変動への対応の重要性を既に認識していたかもしれませんが、気候変動に関する要求事項が明確に盛り込まれたことで、マネジメントシステムの枠組みにおける重要性が高まります。実際、多くの組織では、環境及び気候問題を直接取り扱うマネジメントシステム (ISO14001、ISO14090、ISO14068など) だけでなく、品質マネジメントシステム (ISO9001) や労働安全衛生マネジメントシステム (ISO45001) を通じて、既存のマネジメントシステムの範囲内で、気候変動への配慮に既に取り組んで いるかもしれません。
そうであっても、この変化は、セクターや分野に関係なく、気候変動への配慮を組織のプロセス、意思決定、リスクマネジメントに組み込むことの緊急性と重要性を浮き彫りにします。
決定的な変化は、マネジメントシステム規格の中で、気候変動が重視され、正式に認識されるようになったということです。ISO規格は、気候変動を自らに関連する課題として考慮することを組織に要求することで、マネジメントシステムの枠組みの中で取り組まなければならない重要な課題として、気候変動にスポットライトを当てているのです。
正式に認識されたことにより、組織が気候変動に関連するリスクを評価及び軽減し、グローバルな持続可能性への取り組みに貢献し、気候変動の影響に直面した場合のレジリエンスを構築することが緊急に必要であることが明示されました。
したがって、この要求事項自体はまったく新しい概念というわけではないかもしれませんが、この要求事項がISO規格に正式に盛り込まれたことは、気候変動への配慮を組織の状況の中で前面に押し出す上で、重要な一歩を踏み出したと言えるでしょう。これは、気候変動が、組織の長期的な存続可能性を確保し、持続可能な未来に貢献するために取り組まなければならない基本的な課題であることを、より広く認識することを示しています。そうであれば、これは歓迎すべきことです。