イベントレポート 1: バリューチェーンにおけるクオリティ文化 意見交換会
去る9月27日、IRCAジャパンは、「バリューチェーンにおけるクオリティ文化 意見交換会」を開催しました。当日は、OEA導入企業を中心に19社から29名にお集まりいただき、活発な交流、討議が行われました。
タイトル: 「バリューチェーンにおけるクオリティ文化 意見交換会」
開催日時: 2024年9月27日 (金) 10:00~16:30
場所: 都市センターホテル 706会議室 (東京都千代田区平河町)
プレゼンター/ 事例発表 (発表順):
●CQI IRCA: サプライチェーンにおけるクオリティの文化を育てる
Tally Singer タリー・シンガー Executive Director
●株式会社ファミリーマート: バリューチェーンにおけるクオリティ文化OEA制度を利用した人財育成プラン
武蔵 芳枝様 製造基盤・品質管理本部 品質管理部 部長
佐藤 正寿様 製造基盤・品質管理本部 品質管理部 兼)製造拠点管理・AFC商品グループ マイスター
●中外製薬株式会社: ビジネスバリューチェーンにおけるQuality向上のための取り組み
樋口 雅義様 執行役員 信頼性保証ユニット長
須藤 宏和様 信頼性保証ユニット 課長
参加企業 (順不同):中外製薬株式会社、株式会社ファミリーマート、JX金属株式会社、日清食品ホールディングス株式会社、株式会社パスコ、よつ葉乳業株式会社、ほか
本イベントの趣旨
日本において、そして世界において、AIを含むデジタル化の驚異的なスピードやグローバルに広がるサプライチェーンなど、急速に変動するビジネス環境の中で、多くの組織が要員のスキル不足やサプライチェーンマネジメントの難しさ、多様性や気候変動への対応を含む持続可能性への企業の取組みに対する社会からの過度とも思える期待などの課題に直面しています。
本年は、それらを解くカギとして、「バリューチェーンにおけるクオリティ文化 (Quality Culture in Value Chains)」をテーマに、クオリティの文化とは何か、どのように醸成するのか、力量をもつクオリティプロフェッショナルやクオリティの文化が果たす役割は何か、そして力量ある人材をどう育てるかについて、CQI からのプレゼンテーションとともに、OEA導入企業を代表して株式会社ファミリーマートと中外製薬株式会社の2社から事例を共有いただき、討議が行われました。
当日は、参加者の皆さんは到着すると早速お互いに紹介しあい、開始前からすでにネットワーキングが始まるという和やかな雰囲気のうちに、IRCAジャパン代表取締役の八井の挨拶と参加者全員の自己紹介で会が始まりました。
サプライチェーンにおけるクオリティの文化を育てる
一番手として、来日中のCQIのExecutive Director及びIRCAジャパン取締役、タリー・シンガーから、サプライチェーンにおけるクオリティ文化の構築 (Building Quality Culture in Supply Chains) をテーマに、グループディスカッションを間に挟みながら、海外の事例発表を含む発表が行われました。
サプライチェーンに影響を与える要素
CQIにおいて、さまざまな組織と接する機会が多いMembership & Commercial Service 担当役員という職務に就いているタリーは、英国内外の多くの組織から一様に、「今は、未だかつてないほどサプライチェーンに課題を抱えている時期である」との訴えを聞くと言います。そこで、これを踏まえ、まず、「サプライチェーンに影響を与える要素にはどのようなものがあるか」についてグループディスカッションを行いました。
各グループから出てきた要素には以下のようなものがありました。
- 異常気象やそれに伴う災害などを含む気候変動
- 戦争、紛争、関連する輸出規制等も含む国際情勢
- 情報セキュリティ関連のリスク
- 地政学的リスク
- 人材不足、労働力不足
- 複雑化、多様化、可視化
- 外部委託先の信頼性
- デジタル化 (ポジティブな変化も含む)
これを受け、タリーからはこれらの課題は英国をはじめ、他の海外の国々でも共通であること、特に変化する現状に対応できるスキルを持った人材の不足が問題となっていること、新しいテクノロジーに関する品質には、品質をマネジメントするためのテクノロジーとテクノロジーを保証する品質という2つの側面があることが説明されました。
また、サプライチェーンは相互につながるチェーンであり、つながりの中に弱い部分があれば、他がいくらよいパフォーマンスをしてもチェーンとして有効に機能しないことが指摘され、サプライチェーン全体を通じてマネジメントするには、品質チームは警察官ではなく、パートナーとして契約前の最初の段階から関与することが重要であると確認されました。
米国のGartner社による、もっとも成功しているサプライチェーンに関する調査によると、サプライチェーンが成功する要因として、1番目はタレント管理、人材のマネジメント、2番目はサプライチェーンの管理にテクノロジー、特にAI をうまく取り込むこと、3番目は事業継続を含むサプライチェーンの堅牢性、復元性を高めることが挙げられているということです。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、サプライチェーンの分断が大きな問題となりました。事業継続を確実にするためには、サプライチェーン全体が同じゴールを目指すこと、同じ文化を共有することが何より重要であるということが指摘されました。
2014年にハーバードビジネスレビューは組織におけるよいクオリティの文化に関する調査を行い、よいクオリティの文化に必要な4つの要素を明らかにしました。1つ目は組織内のリーダーたちが文化醸成に必要な資源を配分するなど、率先してよい文化の醸成をリードすること、2つ目は、リーダーが信頼できるメッセージを出し、有言実行を確実にすること、3つ目が組織内の全員が参加すること、4つ目はクオリティ文化について品質部門だけではなく組織内の全員が当事者意識を持つということです。3番目と4番目については、日本ではすでに TQM の考え方で根付いていることをタリーは指摘しています。
サプライチェーンにおける良質なクオリティの文化
そして、ここで、「サプライチェーンにおける良質なクオリティの文化とはどのようなものか?何が必要か?」が討議されました。
各グループからは主に以下のような事項が議論のポイントとして挙げられました。
良質なクオリティの文化には何が必要か?
● コミュニケーション、透明性、隠し事がない、共通の価値観
● 目的、ゴールの共有
● 信頼関係
その上で、タリーからはサプライチェーンにおける文化醸成の海外事例として、業界全体に関する事例と企業単位の事例が紹介されました。
業界全体の取組みとしては、航空業界の例が示されました。英国では航空業界21世紀サプライチェーンプログラム (SC21) により、指標や要求事項が示され、サプライチェーン内の組織は定められた共通の要求事項に対して自分たちがサプライチェーンの中でどのくらいの位置にあるのかを確認でき、改善が進むと表彰されるという仕組みがあります。この確認は自己評価と第三者の評価員によって行われ、評価員は、各組織が次の段階に進むためのアドバイスも行います。これにより、SC21は、英国国防省を含む主な顧客がこの業界のクオリティの文化がどうなっているかを理解する助けとなるとともに、セクター全体の品質向上にも役立っているとのことです。
そして、もうひとつ、これとまったく違う企業単位のアプローチとして、契約を通じてサプライチェーン内のクオリティ文化を醸成する取組みが紹介されました。ロンドンの東西を横断する新しい地下鉄路線を建設したクロスレイル社では、プロジェクト全体を通してよいクオリティの文化を醸成するということ、そして学習したことを遺産/レガシーとして残すという2つの目的を設定していました。
この目的達成のため、一次外注との契約において2つの要求が明示されました。1つ目の要求は、各一次外注はChartered Quality Professional もしくは同等の資格を持った人員を常に配置するということです。建設業界では品質についてこのような取組みは前例のないことであり、クロスレイル社とCQI は共同で建設業界に特化したトレーニングプログラムを開発しました。これは学習の遺産として残り、他の大手の建設企業も同様の要求を契約に盛り込むようになったということです。
契約における次の要求事項は、問題発見時の対応についてです。顧客であるクロスレイル社側がプロジェクトで品質問題を発見した場合は、その問題修復の費用はすべてサプライヤーが負担しなければならないというペナルティが課せられます。しかし、サプライヤー側が問題を発見し、クロスレイルに報告した場合は、ペナルティが最小限に抑えられ、修復に掛かる費用はサプライヤーとクロスレイル社で折半するという取り決めです。これにより、サプライヤー側は問題を隠さなくなり、透明性が増すという結果が生まれました。
また、クロスレイル社のCEOはすべての一次外注と四半期ごとに品質会議を持ち、そこでは品質マトリックスが議題とされ、さらにこの品質マトリックスの指標による評価表を公表しました。さまざまな外注がどのようなパフォーマンスをしているかを100%透明化した結果、プロジェクト全体を通じて、品質の重要性が高まり、品質が高いレベルに保たれました。もちろん問題が発生なかったわけではありませんが、問題の顕在化は透明性が保たれていた故とも捉えられます。
これらの事例紹介のあと、「サプライチェーンにおける良質なクオリティの文化を促進するために、あなたの組織には何ができるか?」というディスカッションのテーマが示されました。
各グループから現在行っていること、今後行いたいこととして以下が提示されました。
- サプライヤー向けのマネジメントシステムの勉強会
- サプライヤーを集めての品質会議の開催
- 監査に二次外注を含める
- 情報開示の仕組みの確立
- ゴールを明確にする
- 相互理解のための訪問
各グループからのこのグループディスカッションの発表をもって、CQI のタリー・シンガーがモデレートする午前の部は終了し、午後に行われるファミリーマート様と中外製薬様の事例発表の前に、昼食とそれに続くネットワーキングの時間が取られました。昼食中も昼食後も、同じグループでディスカッションを続けたり、他のグループの人たちとネットワーキングをしたり、盛んな交流が繰り広げられました。
株式会社ファミリーマートの事例発表はこちらからお進みください。
バリューチェーンにおけるクオリティ文化OEA制度を利用した人財育成プラン
中外製薬株式会社の事例発表はこちらからお進みください。
ビジネスバリューチェーンにおけるQuality向上のための取り組み
◆経験の深い皆様とのセッションと素晴らしい講演が組み合わさっていたことで、他社との差異と共通点に思いを馳せつつ、常に思考をフル回転させることができました。
◆異業種の方々からの情報やご意見は、やはりとても新鮮に感じました。
◆先進的な企業様の事例は大変参考になり、模範になります。当面の具体的な目標になりました。
◆中外製薬さんもファミリーマートさんも顧客に信頼できる製品を届けるための素晴らしい取り組みをされていることを理解しました。
◆他社がどれだけの事を実際に運用しているか、事実を知れて、ある意味衝撃的でした。夢や憶測でなく、ここまでできるのかと現実を知りました。
◆特に会社の専門や役職を小さく括るのではなく広く集めていただけてそれぞれの立場での見識や視座でお話を伺うことができてよかったです。
◆これまで、同業他社とのディスカッションは幾度と経験をしてきましたが、全く違う業種(特にコンビニ業界の品質部門)の方々とのディスカッションは得るものしかなかったです。
◆タリー・シンガーさんのQMS視点での事例紹介は他で聞くことのできないものでした。英国クロスレイル事例での、学ぶことをレガシーにする、という目標設定は早速社内でも紹介したところ、強い共感を持ったとの感想を聞いています。チーム活動のリーダーをした方からのフィードバックでした。
◆すべて、私の予想をはるかに超えていて、それが事実ということが衝撃的です。
◆英国及び欧州の状況と日本の困難な状況が似ている事がわかった。
IRCAジャパンから
今回はCQIからの発表だけでなく、ファミリーマート様、中外製薬様からも事例の発表をいただき、大変中身の濃いイベントとなりました。午前10時から午後4時30分までという1日掛かりのイベントでしたが、それでも時間が足りない、もっと話を聞きたかった、もっとディスカッションしたかったというお声をたくさんいただきました。普段接することはない他業種の方たちが同じテーブルに座り、それぞれの成果や課題を話し合うことができたことは、参加者の皆様にとってだけでなく、IRCA ジャパン及びCQI にとっても貴重な機会となりました。引き続き、このような機会をご提供していきます。