チャットGPTを使ってみましたー実践編 1
UnsplashのSanket Mishraが撮影した写真
本稿の「まえがき」では、チャットGPTを使ってみて考察した全般的な所感を述べた。以下「実践編 1」では、実際にチャットGPTを使ってISOのマネジメントシステム標準について相和した結果の一部を紹介する。このチャット内容は一見するとチャットGPTがどう考えているかを調べた結果に見えるが、チャットGPTはあくまで公知文献を検索してアルゴリズムに基づき一定の文章にしたものである。前に述べたようにその判断は保証されているものでない。
4.ISOのマネジメントシステムについてのチャット
4.1 基本的な事項についてのAIの認識確認
ISOのマネジメントシステムについて知るためには、まずISOという機関について理解しておくことが大切である。そこで最初にチャットGPTが機関としてのISOをどの程度理解をしているか知ることを目的に対話を行った。
ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)は、1947年2月23日に設立されました。ISOは、世界中の国々が共通の基準や要件に基づいて製品、サービス、システムなどを設計、開発、評価することを支援することを目的としています。現在、ISOは、メンバー164カ国から構成され、世界中の企業、政府、非営利団体、消費者などによって活用されています。
「いつできたのですか」という質問は時代背景を知るための質問であったが、創立年月日を答えるだけでなく、質問の意図を察して概要まで答えてくれている。ただし、なぜ必要だったのかまでは言及していない。
4.2 追確認の反応状況
工業標準化法がJISによって鉱工業品の標準化を進めると共に「鉱工業品の品質の改善、生産能率の増進その他生産の合理化」を目的としていたことを念頭に、ISOの設立目的の情報を確認するために質問を続けた。
ISOが必要になった主な理由は、国際的な貿易が増加し、国境を越えた取引が一般的になっていたことです。このような状況では、異なる国々で製造された製品やサービスが同じ基準で評価され、交換可能であることが重要となります。しかし、各国が異なる基準や要件を使用していた場合、異なる基準に基づいた製品やサービスを評価することは困難であり、貿易の障害となる可能性がありました。
そのため、ISOは、世界中の国々が共通の基準や要件を使用することにより、製品、サービス、システムなどを評価し、交換可能にすることを目的として設立されました。このように、ISOは国際貿易の促進に役立ち、製品やサービスの品質を改善し、消費者保護を促進することができました。
一般的な国際標準の解説としては分かるが、1947年という第二次大戦からの戦後復興の時期の説明としては国際的な貿易の増加を挙げている。違和感があるので更に追加質問を行った。
ご指摘いただきありがとうございます。確かに、国際的な貿易が急激に増加したのは1970年代以降であり、1947年にISOが設立された当時は、国際貿易が現在ほど活発ではありませんでした。
ただし、ISOの設立には、第二次世界大戦後の国際的な取引が増加に対し、異なる国々が使用するさまざまな標準や要件によって貿易が妨げられていたという背景があります。したがって、ISOが設立された目的は、各国が共通の基準や要件に基づいて製品、サービス、システムなどを設計、開発、評価することを支援することであり、このような国際的な貿易の障壁を取り除くことが含まれています。
つまり、ISOは、国際貿易が増加する前から、国際的な取引における標準化の必要性を認識していたということになります。再度、おっしゃっていただいたことに感謝いたします。
回答に見られるように、チャットGPTは意見を修正することには積極的で、人間であれば自分の言い出したことに拘ったりメンツを保とうとして言い訳を挟んで来たりすることがないことが分かった。そこでもう一段、明確化を試みる質問を行ってみた。
そうです、国際標準の推進が大きな目的であり、当初は国際貿易の増大について直接的な意識があったわけではありません。【以下略】
国際標準によって、各国が製品やサービスの品質を統一的に評価することができるようになり、それによって国際貿易が円滑に行われることが期待されること、製品やサービスに対する技術的な規格の国際標準化によって競争が促進され、技術的な進歩が期待されることなど、ISO設立当初の狙いを説明すると共に、国際的な貿易の増加によって国際標準の重要性がますます高まってきて、現在では、国際標準の重要性はますます高まり、多くの企業や産業界にとって、欠かせないものとなっていることなど国際標準の進展の説明があった。ISO創立の背景として国際的な標準化の必要性を説明しており、工業標準化法のような産業奨励の影はないことが確認された。
しつこい質問にも相手がコンピュータアルゴリズムであるからいやな気配を見せてこない。当初の回答に違和感があればしつこくても遠慮なく質問を繰り返してチャットをすることがAI相手だからこそ容易にできると感じられた。
4.3 「品質保証」に関する日英の言語文化の違いについてのチャット
次に、ISO9000:2015の3.3.6が定義する「品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」という品質保証の定義を分かりやすくするために、「満たされる」という英語の現在形に着目をして質問を行った。
それは間違いではありません。ISOによると、Quality assuranceは、製造前の計画、製造中のコントロール、製品のテストなど、製品の品質を確保するための様々な活動を指します。製品を受注する前に受注する製品を製造できることを示すことが含まれます。一方、日本の「品質管理」は、製造過程中に製品の品質を確認することを意味します。製造目的に合っているかどうかを確認することに重点が置かれています。品質保証は、製造前から製品の品質を確保することを意味します。ということで、日本の説明とISOの説明は異なりますが、両者は製品の品質を確保することを目指しています。
ということは、日本で言う品質管理は製造事業者の内部活動であり、ISOのいう品質保証は買い手を相手にした活動といえるのでは?
はい、それは正確な説明です。日本で言う品質管理は、製造事業者による製品製造過程における内部的なプロセスであり、製品の品質を確保するための活動を指します。一方、ISOのいう品質保証は、買い手から見た製品品質の確保を指しており、製造事業者が受注した製品を製造するための計画、準備、および製造過程中のコントロールを含みます。両者の違いは、品質管理が製造事業者の内部のプロセスを指しているのに対して、品質保証は製造事業者と買い手との関係を指しているという点にあります。
上のチャットからはチャットGPTは日本で言う品質保証は品質管理の結果としての事柄と考えているようで、敢えて確認はしなかったが、日本の「品質保証」の質問に対して「品質管理」に置き直して回答をしているようである。
言語にはそれぞれの言語が抱えている言語文化の違いがあるが、英語で書かれているISO標準を理解するためには英語の言語文化で考えることが必要である。このため、ISO9001を翻訳したJIS Q9001の冒頭に「この規格は,2015 年に第5 版として発行されたISO 9001 を基に,技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である」という注釈を載せている。このことを念頭に、チャットを続けた。
はい、それは正確な説明です。国内取引では、売り手と買い手が直接的な関係を持つことができるため、売り手の品質能力を確認することが容易ですが、国際貿易では、買い手が売り手の品質能力を知ることが困難な場合があります。このような場合には、第三者の認証が役立つことがあります。ISO9001は、品質保証システムを確立するための基準となる標準であり、売り手の品質能力を確認するための評価基準となります。つまり、売り手がISO9001認証を受けたことを示すことで、買い手は売り手の製品品質に対する確固たる信頼を獲得することができるということです。
戦後生まれた工業標準化法によって生まれたJIS規格が産業奨励の性格も持っていたために、一部にはISO標準も同様に考えている向きもあるようであるが、チャットGPTはそのようなバイアスを受けない回答をしてきた。
4.4 2015年版で「品質マニュアル」の言及がなくなったことの説明に見られる曖昧性
ISO9001:2015ではそれまで要求に含まれていた「品質マニュアル」の言及がなくなったが、これをどう説明するか質問をした。
確かに、ISO 9001の2008年版では、品質マニュアルの作成が要求されていました。しかし、2015年版では、品質マニュアルの作成が必須とされていなくなりました。代わりに、組織は自己のプロセスと品質マネジメントシステムに関する情報を文書化することが求められます。この文書化の方法は、組織によって異なりますが、品質マネジメントシステムの構築、運営、維持に必要な情報を提供し、適切な場所でアクセスできるようにすることが重要です。したがって、2015年版では、品質マニュアルそのものが必須ではなくなったものの、品質マネジメントシステムに関する情報を適切に文書化することが引き続き求められます。そのため、組織は、自己の要件や目的に応じて、必要な文書を作成し、適切に維持する必要があります。
インターネットを見ると、2015年版で品質マニュアルが不要になった、組織は品質マニュアル要求のくびきから解放されたという意見があるようですが、どう思いますか?
確かに、ISO 9001の2015年版において、品質マニュアルの作成が必須とされなくなったことから、組織は一定の自由度が生まれました。ただし、品質マニュアルが不要となったからといって、品質マネジメントシステムの文書化が不要となったわけではありません。組織は、自己のプロセスと品質マネジメントシステムに関する情報を文書化することが引き続き求められます。
また、品質マニュアルが必須であった過去においても、品質マニュアルを作成すること自体がくびきであるわけではありませんでした。品質マニュアルは、品質マネジメントシステムの構築において、重要な役割を果たす一つのツールに過ぎません。そのため、品質マニュアルが不要となった今日においても、組織は、適切な文書を作成し、適切に維持することが求められます。
したがって、組織は、自己の要件や目的に応じて、必要な文書を作成し、適切に維持することが重要であり、品質マニュアルが不要となったことが、品質マネジメントシステムの文書化において完全に自由を与えるものではないと言えます。
「2015年版では、品質マニュアルそのものが必須ではなくなった」と言いながら、「品質マネジメントシステムに関する情報を適切に文書化することが引き続き求められる」と言うことが回答を曖昧にしていると感じられる。「品質マニュアルが不要となった今日においても、組織は、適切な文書を作成し、適切に維持することが求められます」と言うことをさらに明瞭にしたいと考えてチャットを継続した。
あなたの考えは一部正しいです。顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力を実証することは、ISO 9001の目的の一つであり、そのためには品質マネジメントシステムを構築する必要があります。
あくまで品質マネジメントシステムの文書の一つとして位置づけられます。品質マニュアルは、品質マネジメントシステム全体の概要を提供するものであり、顧客や関係者に品質マネジメントシステムの概要を示す際に使用されることがあります。
ただし、品質マニュアルが必要であるというわけではなく、組織は、品質マネジメントシステムの概要を示すために、品質マニュアルを使用する必要はありません。組織は、その他の文書やツールを使用して、品質マネジメントシステムの概要を示すこともできます。
「品質マニュアル」という呼び名を用いることを止めただけで、要求していることは変わりがないのですよね」という意味の意見を使ってイエス/ノーを迫る質問をした結果、イエスを確認できた。こちらの意見を用いた質問を使うことも有効だと確認した。ただ、チャットGPTは「品質マニュアル」を定型的な文書と考えている節があり、ISOの標準文書だけでなく一部の解説書の影響を受けて回答しているのではないかと考えた。ISO9001:2015で品質マニュアルという言葉を使うことを止めた原因でもあるのかも知れない。ただ、イエスの回答が得られたのでこのチャットはこれ以上続けなかった。