ISO 9004:2018ー知る人ぞ知る有用な規格
ITコンサルティング会社IQM GroupのマネージングディレクターであるCarew Hatherley氏が、ISO 9004の評価システムを、さまざまなスタイルのレポートや分析にどのように利用できるかを考察します。
ISO 9004:2018とはどんな規格?
「ISO 9004:2018 品質マネジメントー組織の品質-持続的成功を達成するための指針」が提供するのは持続的な成功を達成するための要求事項ではなく、指針です。したがって、組織はこの規格に適合していることで認証を取得することはできません。しかし、それゆえに、応用の仕方はより自由です。
ISO 9001やISO 45001など、適合性評価機関から正式な適合性証明書を取得する一般的な規格では、被監査者は心の中で合格か不合格かとやきもきしますが、ISO 9004はそのような二項対立的 (binary) ではない道筋を提供します。
実際、ISO 9004は被監査者がオーナーとなって実施する、身構える必要のない評価として、使いやすい代替手段です。
ISO9004は、ヨーロッパ人が手なずけて標準化しようとした、より人間中心の総合的品質管理 (TQM) のように、「都合がいいように勝手に解釈」されません。ちなみに European Centre for Total Quality Management (欧州総合的品質管理センター) は2009年に閉鎖され、オバマ政権は2008年から2009年の世界的な景気後退の後、TQM に関する言及をすべて消去したため、手なずけ、標準化するのに失敗したのだという人もいます。
Plan, Do, Check, Act (PDCA)
ISO9004は、品質、情報セキュリティ、労働安全衛生など、認証を受けることができるすべての規格に適用されるのと同じく、ISOの古典的な4段階の循環プロセスであるPDCA (Plan, Do, Check and Act) を採用しています。PDCAプロセスは、ビジネスプロセスとして合理的であるだけでなく、PDCAサイクルを回すことで、後々のISO認証取得への不安も軽減されます。
表面的には、ISO 9004はビジネス評価やパフォーマンスエクセレンスモデルのように見えます。ISO 9004ではPDCAサイクルの各パートに、特定の質問セットや評価があります (図1)。Planが7、Doが13、Checkが7、Actが4で、合計31の評価が実施されます。
ISO 9004が他のISO規格と大きく異なる点は、PDCA サイクルの4つの部分のそれぞれに、特定の質問セットや評価があることです。31の要素、すなわち小項目や自己評価基準には、1から5までの成熟度評価が与えられており、1が最低得点 (基本レベル)、5が最高得点 (ベストプラクティス) となっています。
「合格」「不合格」と見做されることが多い、「適合」または「不適合」という従来の二項対立的な監査の評価は、9004にはありません。より微妙な、二項対立のない採点基準に置き換えられています。
各成熟度レベルには、それぞれ独自の基準や質問セットが用意されているため、さらにきめ細かい対応が可能です。このようにPDCAの要素 (小項目) をグループ化することで、パフォーマンスの全体像を把握しやすくなり、PDCAモデルを反映した要求事項を持つISO規格との親和性も高くなります。
組織自身による第一者内部監査としての評価後、または外部第三者審査の場合は訓練を受けた評価者または審査員による評価後、 31の各要素を集計し、総合得点を表示することができます。
証拠に基づく意思決定
ここでは (図2)、PDCAサイクルの4つのパートにそれぞれ共通の色分けをしています。成熟度のスコアを図示するだけでなく、他の組織とのベンチマークや、契約に入札する企業のフィルタリングなどの受け入れ基準に対するベンチマークも容易に行うことができます。
このように、ISO 9004は、例えばISO 9001やISO/IEC 27001への適合証明書を事前の資格基準として強制的に要求するというのとは違う、外部提供者選定のためのより繊細な方法として捉えることができます。
また、さらに2つのアウトプットが可能です。
第一に、フランチャイズ、協会、会員組織または業界団体など、利害が一致する業界または団体の連合体は、会員間で比較して、明らかにベストプラクティスを実施している組織、支援を提供または必要としている組織を確認することができます。
第二に、スコアを匿名化することで、個々の組織が同業他社との比較において自分たちがどのような評価を受けているかを確認することができます。
31の個別スコアをPDCAの要素にグループ化することで、どこに資源を集中させれば最高の投資対効果を得られるか、あるいは組織の目的を確実にサポートできるかについて、根拠に基づいた意思決定ができるようになります。
実績と傾向を追跡する
ISO 9004は年間審査/監査サイクルに縛られていないため、単発の審査/監査でも定期的な審査/監査 (月次、四半期、年次) でも自由に対応できます。結果や傾向を追跡しながら、被審査/監査者のペースで、ビジネスのリズムやスケジュールと同調させることができるので、診断ツールとしても活用できるでしょう。
これはISO規格に照らして認証するものではないので、評価者や審査員の経験を前面に出すこともできます。国際認定機関フォーラム (IAF) の規制や適合性評価機関 (CAB) に課される要求事項に抵触することなく、コンサルティングのような立場で推奨を行うことができます。
明らかになったのは、ISO9004では他のISO規格と同じ用語や定義が使われているので、成熟度スコアを改善するための王道はISO 規格を実装することだということです。
ここにちょっとした皮肉があります。ISO規格の中で最も二項対立性 (binary) が低い規格の1つが、(二進法 binary を利用する) デジタル化が進む世界に最も適した規格の1つであるということです。
『CQI ガイド ISO 9004: 2018 持続的成功を達成する』
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